久しぶりです。 トゥモローゲートの意匠制作部、タカウマです。
プロジェクトでクリエイティブディレクターとして企画や制作物の方向性を決定し、クオリティを保証しながら進める役割を担っています。
その中でも企画の方向性を定めるために欠かせないのが上流設計です。クライアントの課題を深く掘り下げ、それに対する解決策としてブランドコンセプトを策定し、それを基に制作ツールに落とし込んでいきます。
今日は、その上流設計の精度をさらに高めるSWOT分析について紹介します。
クライアントの課題を解決するためには、クライアントの強みや弱み、周囲の環境を把握することが必須条件です。これらをシンプルに分析できるのがSWOT分析です。このブログでしっかり学んで、ぜひマーケティングやブランディングに活用してください。
また、他にもさまざまな分析を紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
【ブログ】3C分析とは?ビジネスに欠かせないフレームワークをわかりやすく解説
【ブログ】PEST分析とは?目的、やり方、事例などその全てを解説
それでは始めていきましょう。
INDEX
SWOT分析は、マーケティングやブランディングにおける戦略立案において上流設計に使われるビジネスのフレームワークです。Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの要素の頭文字から構成されています。
これらの4要素は縦軸で「内部環境」と「外部環境」に分け、横軸で「プラス要因」と「マイナス要因」に分けて分析します。(図参照)多くのフレームワークの中で最もシンプルな分析方法と言われています。自社を軸とした分析のため、同業種でも違う結果が出ることが多く、独自性のある戦略につなげやすいのが特徴です。
SWOT分析は、マーケティングやブランディングにおける戦略立案だけでなく、組織目標の設定や社員一人ひとりの目標設定にも応用できます。また、自社の現状分析や業界の分析など、さまざまなシーンで効果を発揮します。
SWOT分析は、「内部環境」と「外部環境」、さらにそれぞれで「強み」「弱み」「機会」「脅威」に分類されます。
SWOT分析はまず「内部環境」と「外部環境」の2つに分けて行います。内部環境の分析では組織や個々の社員が持つ強みや弱みを挙げていきます。具体的には、経営資源や資産、ブランド力や品質、社内制度や福利厚生、文化などなど。自社でコントロールできる領域の強みや弱みが対象となります。
Strength(強み)の項目には自社サービスや商品においてプラス要因となるものが入ります。例えば以下。
・顧客満足度
・技術開発力
・店舗立地
・蓄積された実績やノウハウ
・ブランドの認知度
・サービス品質
・社風
・労働環境が良い
同業他社と比べて優れている点が強みとして挙げられます。一見強みに見えなくても、他社や業界の状況によっては強みと判断できる可能性もあるので、あくまでここでは「自社特有の」という前提を持ちましょう。
Weakness(弱み)は、強みとは逆に自社サービスや商品においてマイナス要因となるものが入ります。例えば以下。
・従業員数が少ない
・顧客単価の低さ
・顧客のニーズに対応できていない項目
・クレームが多い項目
・設備面での不備や課題
・資金不足
同業他社と比べて劣っている点が弱みとして挙げられます。
一方、外部環境の分析では、組織や個々の社員を取り巻く環境について調べていきます。業界・市場・政治の動向、競合他社の動き、法律・規制、経済・景気状況、国内外の社会的動向、技術革新、ユーザーのニーズなどなど。自社ではコントロールできない領域のことを指します。
Opportunity(機会)は、外部環境の中で自社にとってプラス要因とされる要素となります。具体的には以下。
・市場拡大
・法律の改正
・政権交代
・社会情勢
・円高
・円安
・顧客のニーズの変化
・少子高齢化
「機会」に挙げられる項目は自社にはコントロールできない部分ですが、捉え方や自社の状況によってはチャンスにもピンチにもなるので、ここを深掘りすることがSWOT分析の中でも大事だと言われています。
Threat(脅威)とは外部環境の中で自社にとってマイナス要因となる要素です。具体的な項目は「機会」と変わりません。大事なのは外部環境が自社にとって「機会」となるのか「脅威」となるのかをしっかり分析することです。
特に「脅威」は抽象的に捉えると全てが脅威となってしまいますので、それが自社にとってどう「脅威」となるのか、もしくは分析前に「どんな外部要因が自社に影響を与えそうか」をピックアップしておくといいでしょう。
SWOT分析における外部環境と内部環境は構造上明確な関係性があります。自社の強みや弱みである内部環境を、外部環境である機会や脅威が取り巻いているという関係性。それぞれが単独で動いているわけではなく、外部環境によって内部環境が変化するなど、関連性を持って存在している点を意識しておくことが大切です。
では、SWOT分析を行うタイミングはいつが適切なのでしょうか。
一つ目は、自社を取り巻く外部環境が変化している時です。変化していない時の方が少ないとも言える時代ですが、基本的には自社の業界に関する情報に対してのアンテナは常に張っておきましょう。
・業界の変化に対し自社はどんな戦略を取るべきか
・自社も時代の流れに合わせて〇〇を取り入れるべきか
・このタイミングで撤退すべきか
などを判断するタイミングにおいては自社の分析が必須です。
外部環境と同じく自社を構成するリソース(人やモノ、情報や文化など)も常に変化しているものです。
・自社の人事異動(役員交代など)
・新たなサービスの開発
・従業員の劇的な増加や減少
内部に大きな変化があったときほど自社の強みや弱みを分析し最大化することが大切です。
おそらくここが一番効果的なタイミングです。 新たな事業やサービス、プロジェクトを開始する前にこそ分析は効果を発揮します。
・プロジェクト始動前
・マーケティングやブランディングの方向性を策定する前
・営業戦略の策定前
・新規事業の参入戦略の策定前
ここでの分析の精度が後の戦略や戦術のクオリティや判断基準を左右します。 競合他社の調査としてもSWOT分析は役に立ちます。客観的に他社を分析することができるため、さまざまなところに良い効果をもたらします。他にも
・競合他社
・業界外にある類似代替サービス
・これから新規参入する業界の既存企業
自分たちにとっては脅威でも他社にはまだその強みが見えていない場合に先駆けて対策を打つこともできます。
以上です。SWOT分析は、基本的には収集して整理した情報をもとに事業の計画や戦略を練る際に有効活用できるフレームワークのため、プロジェクトを始動させる前のタイミングで行うことが最も効果的です。
すでに進行中の事業にも活用はできますが、分析結果によって軌道修正や方向性の転換が起こる可能性は大いにあるため、SWOT分析で得た情報をもとにその後のアクションを判断することまで見据えておきましょう。
具体的なSWOT分析の方法について解説していきます。
まずはターゲットや目的を決めることから始めましょう。その上で内部環境ではなく外部環境の分析から入るようにしてください。内部環境から…と紹介されている情記事もありますが、個人的にそれはお勧めできません。なぜなら内部環境は、外部環境の影響を受けて強みや弱みが変わる可能性があるからです。
仮に内部環境の強みや弱みを分析して自社の強みを見出したとしても、将来の顧客のニーズがそれとは全く異なる場合があります。そのため分析をもとに立てたせっかくの戦略がズレたものになってしまう可能性があります。目的はあくまでも事業やサービスの成功。分析することが目的にならないように気をつけましょう。
まずSWOT分析を行う目的を決めることが重要です。同じ情報でも、目的によって捉え方や解釈が異なるからです。また、分析する対象範囲も決めておく必要があります。自社全体なのか、特定の事業に関するものなのかなどを明確にしておかないと抽出できる情報が広範囲すぎるなんてことが起こり得ます。
SWOT分析で特に時間をかけるべきなのは「機会」の抽出です。
自社にとって優位に働く可能性がある「機会」を見逃してしまうと分析が表面的になり、強みの把握ができなくなってしまいます。逆に「脅威」については現実的に対策ができないこともあるため、自社の分野における「脅威」を見極めて対策を練ることが重要です。
外部環境の分析には複数のフレームワークを併用することが効果的です。参考をいかに添付します。
PEST分析は自社を取り巻く4つの外部環境を徹底的に分析するフレームワークです。
Politics:政治
Economy:経済
Society:社会
Technology:技術
業界を飛び越えマクロ視点で分析できるのが特徴です。
【ブログ】PEST分析とは?目的、やり方、事例などその全てを解説
ファイブフォースは、分析外部環境の要でもある業界や市場についてミクロの視点で分析することができるフレームワークです。
・競合
・新規参入者
・代替商品
・購入者の交渉力
・販売者の交渉力
この5つの要因から業界全体を分析できるフレームワークです。
外部環境の分析と同様「強み」にフォーカスする分析から始めましょう。このあと展開する「クロスSWOT分析」で戦略を考えていく上でも「強み」の深掘りは必須です。
「弱み」も深く追求することは大切ですが、「できない理由」を並べすぎてネガティブな思考に走ってしまう恐れがあるので「強み」ほど時間を割かなくても大丈夫です。
自社の「強み」といってもターゲットによって訴求すべきポイントが異なるため、網羅的に分析する必要があります。フレームワークを有効に使って分析していきましょう。
自社の「強み」を知るためにはターゲットに対してどのような点を訴求すべきか、訴求できるか把握する必要があります。そのためにはまずターゲットを知ることが必須。そこで活用するのが「3C分析」です。
・Customer(顧客・市場の分析)
・Competitor(競合分析)
・Company(自社分析)
3つの視点から自社の特徴や強み・弱みだけでなく、顧客や市場についても分析していくことができるのが3C分析。SWOT分析と併用することでよりお互いの効果を高め合えるフレームワークです。
SWOT分析で情報を埋めたらそれをもとに「クロスSWOT分析」で戦略を立てていきます。「クロスSWOT分析」とはその名の通り、それぞれの項目を掛け合わせて戦略の方向性を定める方法。下記のように4パターンの戦略があり、多面的に分析していくことができます。
「機会」(ビジネスチャンス)に対して「強み」をどう活かすかの積極的な戦略です。外部環境、内部環境ともに良いところを活かして考えていくのが一番大切。クロスSWOT分析ではこの「積極化戦略」を最優先に考えます。
競合他社や市場規模の縮小、経済不況などの「脅威」に対して自社の「強み」を使ってどう切り抜けるかを考える戦略です。
「機会」を活かすために「弱み」をどう改善・克服・補強するかについて考える戦略。自社の「弱み」を把握して克服するには時間がかかります。そのため比較的長期的な取り組みを必要とする戦略です。
「脅威」をできるだけ最小限にとどめる防衛的な戦略。基本的には対策について考えますが、ときには事業の撤退も視野に入れることがあります。
SWOT分析をより有効なものにしていくために、意識すべきことなどをご紹介します。
すでに「SWOT分析をする目的」と紹介しましたが、さらに言えばこのプロジェクトで何を達成したいかといった、戦略を立てる上で狙うべき状態、つまりゴールが明確でなければプロジェクトメンバー間での認識のずれが起こってしまいます。
戦略の質と目標達成率を向上させるためにも、SWOT分析がどのような目的につながるのか、プロジェクトメンバー全員が共通認識を持てるようにすることが大切。
SWOT分析は自社の強みと弱みを分析する手法ですが、自社の目線で考えすぎると主観が入り、適切な分析ができなくなってしまいます。
そこで重要なのは「顧客にとってどうなのか?」という視点もしっかり持つことです。そのため自社の内部状況だけでなく、顧客や市場の動向を含めてしっかりと把握してから分析を進める必要があります。
SWOT分析は特定の人が少数で実施するよりも、プロジェクトメンバー全員が把握して共通認識を持った状態で進めることが大切です。そのため営業部の人間だけで、制作部の人間だけでもなく、分析に適した人材を各部署から選定するようにしてください。
また、分析した内容は部署同士で連携して認識を共有することが大切です。企業全体で外部環境と内部環境の現状が把握できている状態を目指しましょう。そうすれば戦略の質は上がり、その先の成果につながっていきます。
質の高いSWOT分析を行うにあたっての注意点をまとめました。
外部や内部の環境について詳しく調査する中で「弱み」や「脅威」が気になりすぎてしまうと、時間が足りなくなったり、戦略の選択肢が狭まってしまったりとネガティブな効果が生まれがちです。
また「脅威」にばかり注目して自社の「弱み」を正当化してしまうこともあります。自社の「弱み」を「仕方ない」で済ませてしまうんですね。そうならないために調査に必要な情報だけを抽出し、客観的な分析を心がけましょう。
「強み」と「機会」をしっかりと区別することが大切です。内部の要素である「強み」と外部で起こっている「機会」が混同してしまうと、本質的な分析ができなくなってしまいます。
「強み」おいては自社の内部環境に過剰に注目してしまい、客観的な視点を欠いた分析になってしまう可能性があります。外部環境やターゲットの状況を加味した上で、客観的なデータや数値をもとに「強み」を抽出しましょう。
SWOT分析は100%正確な分析ができるわけではありません。特に外部要因においては毎秒のように状況が変わっているわけですから、完璧に分析することなんて不可能。
まずその事実を把握することが大事。その上でSWOT分析にとどまらず様々なフレームワークを組み合わせて戦略を立てることで、完璧な状態に少しでも近づけていきましょう。
誰もが知っているような大企業ほど、こういった分析を行い緻密な戦略を立てているケースが多いと言われています。ここからは多くの記事やサイトでも分析されている大企業のSWOT分析事例を紐解いていきましょう。
Appleの強み
・ブランド力
・スマートフォン市場でのiPhoneの先駆け的存在
・最近急拡大しているApple Watch
・PCにとどまらず多彩な製品を展開している
Appleの弱み
・高価格
・iPadの需要や位置付けに苦戦している
・スマートスピーカー事業が思ったように伸びていない
Appleの機会
・スマートフォンアプリの発展
・世界的にガソリン車を廃止する風潮
・多くの大手携帯キャリアでiPhoneを取り扱っている
Appleの脅威
・他社スマートフォンやPCメーカーの存在
・スマートフォン市場全体での最新機種の伸び悩み
上記の分析から、iPhoneはスマートフォン市場の先駆けでありながら、競合他社も商品力を飛躍的に上げているため最新機種の魅力も薄れがち。デバイスによる勝負は頭打ちになっていると考えられます。
しかしそこでAppleはこれを予見し、Apple StoreやApple MusicのようなWEBサービスの展開、また電気自動車への参入など新たな分野での挑戦に力を入れています。
今後はiPhoneやMacなどのデバイス事業を主軸に据えつつ、ブランド力や開発力を生かして新たな分野に挑戦する戦略を展開することも考えられます。
IKEAの強み
・DIYを基本とし組み立てコストを削減することで販売価格を下げている
・イラストのみのシンプルな説明書で言語の壁を超えて説明が可能である
IKEAの弱み
・北欧メーカーであるため製品規格が日本に適合していない
・上記の理由もありアジアでのシェアは限定的である
IKEAの機会
・北欧商品のブーム
・日本でのDIYブームの到来
IKEAの脅威
・日本でもDIYが浸透しつつあるがまだ抵抗を感じる人がいる
・日本の住宅は世界と比較して狭いことが多く家具のサイズが合わないことがある
・ニトリなど安価で有名な既存の家具メーカーの存在
IKEAは日本の気候に合わせたショールームを展開するなど、日本独自の広告活動を行っています。また、競合する日本の家具メーカーとの差を埋めるために、接客にも力を入れています。
近年はDIYが流行している一方で、「0から家具を作る」ということに抵抗がある人がまだ多いため、IKEAはその層に向けた適切な価格帯やハードルを提供することで需要に応えているようです。
SONYの強み
・世界最大のAV機器メーカー
・圧倒的なブランド力
・映画、音楽、エンターテイメント、金融など多角的な事業展開
・卓越した発想力と開発力
SONYの弱み
・水平分業であること
・モノづくり体制の弱体化
・成長戦略が不明瞭
SONYの機会
・世界的に景気回復の兆しが見え始めている
・省エネ家電購入を支援する「エコポイント制度」の導入
・オリンピックでの業務用カメラの大量使用
・ファーウェイの失速
SONYの脅威
・新興メーカーのテレビ市場への参入により競争が激化している
・競争激化によりパソコンの低価格化が進行している
・低価格スマホの参入
三越伊勢丹ホールディングスの強み
・百貨店業界において日本一のブランド力と売上
・伊勢丹のマーチャンダイジングにおける競争優位性
・若年富裕層の優良顧客(伊勢丹)
・中高年富裕層の優良顧客(三越)
三越伊勢丹ホールディングスの弱み
・顧客の高齢化(三越)
・収益改善の困難性(三越)
・一部の支店の収益性が低い
・伊勢丹新宿店への依存
三越伊勢丹ホールディングスの機会
・中国人観光客の増加
・コロナ禍などによるオンライン市場の拡大
・アジア圏の経済力向上による市場成長
三越伊勢丹ホールディングスの脅威
・増税による景気低迷
・個人消費および法人の贈答用需要の減少
・業界内での競争激化
・百貨店業界の売上の縮小
・インターネットショッピングやテレビ通販などECの台頭
・日本市場の成熟化、人口減により販売対象が減少
・国内人口減による販売対象の減少
企業の戦略に関する方法やノウハウを紹介してきましたが、SWOT分析はそもそも思考のフレームワークであるため、企業の戦略以外のことにも適用できます。
例えば自己分析。
自分の強みと弱みをはじめとする自己分析にも適用することが可能です。就職活動においては自分自身に加えて志望する企業の環境や特徴も分析することができるため、より効果的かもしれません。
では、ブランディングを生業としているトゥモローゲートではどのようにSWOT分析を活用しているのでしょうか?というかそもそもブランディングにはSWOT分析が必要なのでしょうか?
トゥモローゲートでは、ブランディングを行う際にクライアントの独自性を大切にしています。
そのコンセプトがクライアントにしか言えないことか。クライアントだからこそできる解決策や打ち出しになっているか。それらを確認するためにクライアント独自の強みや弱み、それらが業界に対してどういった解決策になり得るのかを緻密に考えます。
SWOT分析は、それらを考える上で欠かせないフレームワークです。フル活用することで、クライアントの「らしさ」が宿った企画やブランディングを展開することができます。
トゥモローゲートは、このようなフレームワークを活用することで、クライアントの成果に繋がるブランディングを追求する会社です。もし興味を持ってくださった方がいれば気軽にご相談ください。最後まで読んでいただきありがとうございました。