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トゥモローゲートのコピーライター小川サトキです。
未経験でトゥモローゲートに入社して1年とちょっと。
「コピーライター」という肩書きを持つのは、僕の入社時からずっと変わらず、巻木さんと僕のふたりだけ。
そう。トゥモローゲートは「ことば」の面でまだまだ進化の余地があるんです。
ブランディング会社であるトゥモローゲートには、会社のルーツや思いや強みを汲み取り的確に言語化する力が必要不可欠。
だからこそ。僕たちコピーライターを筆頭に、会社全体の言語化力があがれば、もっともっとオモシロイ組織になれるんじゃないか。そう考えた(であろう)巻木さんがある日こんな提案を僕にしてきました。
「リレーコラムやろう」
僕はキャッチコピーを見たり書いたりするのが大好きですが、世の中で「名作」とされているものの中には正直「これって何がすごいの?」と思うものもあります。でも、名作と呼ばれるからには必ず理由があります。
ぱっと見の言葉だけでなく「ターゲット」「時代背景」「企業の想い」などを分析すればその凄さがわかるはず。凄さがわかれば、いざ自分で書くとなったときに活かせるはず。ということでその第一回です。
分析する対象はお互いがその都度決めていく“無茶振り方式”に決定。巻木さんからチャットがきました。
さて、今回ご紹介するコピーはNetflixの「人間まるだし。」です。
この映像は、日本の名だたるコピーライターが審査員を務める「東京コピーライターズクラブ(通称:TCC)」にて、2020年度の新人賞を獲得した名作テレビCMです。
このCMが世に出たのは、Netflix制作ドラマ『全裸監督』が放送された2019年のことでした。元セールスマンから数々の苦難を経てAV監督デビューし、業界で大成功から大転落するまでを描いた作品。そんな話題作のプロモーションとあわせてNetflixというサービスの魅力を伝える広告でした。
美しい時代です。
誰もが「正しさ」に燃え、「正しくない」表現を炎に包む、美しい時代です。
思い切った表現が、どこかで「正しさ」の壁にぶつかるこの時代。
「コンプライアンス」という言葉に塗りつぶされるこの時代。
私たちは今、とても美しい時代を生きています。でも。人間のありのままを見せることは罪でしょうか。
人間には、見たいものがある。見るべきものがある。
人間のおかしみもかなしみも、希望も絶望も、そのすべてに物語がある。さあ、まるだしの表現を、まるだしの人間を。
NETFLIXなら見れる。ONLY ON NETFLIX
うーん。しびれますね。。
渋谷スクランブル交差点で「人間まるだし。」の広告が大々的に掲出されたことも相まって、話題性のあるキャンペーンになりました(ちなみにこの名作を巻木さんがチョイスした理由は「俺が好きだから」だそうです)
さて。このコピーの素晴らしさを、さまざまな角度から分析していきたいと思います。
2019年、このCMが話題になった一因として「マスメディアとSNSのギャップ拡大」が挙げられるのではないかと考えています。
地上波放送では、少しでも物議を醸すような表現があれば問題視され、時には放送規制や放送中止といった事態に発展していました。
一方ネットでは比較的自由な表現が許されており、「規制が多いマスメディアより自由な表現を楽しめるネットの方がいい」という風潮が高まっていったのが2019年という時代だったように思います。
2019年のBIGLOBEの調査によると「テレビ放送がつまらなくなったと感じるかどうか」という質問に対して78.6%の回答者が「感じる」「やや感じる」と答えているデータも見つかりました。
その風潮にマッチしたサービスがNetflixだと感じます。なんと言っても圧倒的なコンテンツ力。今回の『全裸監督』をはじめ『愛の不時着』や『イカゲーム』など、社会現象と言っても過言ではないnetflixオリジナル作品が次々と生まれていました。
それらの特徴の1つと言えるのが、地上波ではタブー視されそうな話題や表現だったとしても、人間の本能や欲望をありのままに描くことで人々の興味をひいているという点です。『全裸監督』はその最たる例でしょう。
そのタイミングで「人間まるだし。」というNetflixのスタンスや作品の傾向を色濃く表現した言葉を世の中に発信することで、自社サービスに理解・共感してくれるファンを増やし、サービス利用者の増加に繋げる。
そんな意図があったのではないかと思います。
いわゆる「既得権益側」に勝負を仕掛けるようなアウトプットの裏にはNetflixの哲学が影響しているのではないかと感じます。
Netflix創業のきっかけ。それは現CEOのリード・ヘイスティングス氏が、創業前に『アポロ13』のビデオテープをレンタルした際、期限切れで40ドルの延滞金を支払わざるを得ず、そのシステムを疑問視したことだと言われています。
そうして1998年に「オンラインでのビデオレンタルショップ」として創業して以来、業界の既存のビジネスモデルに変革を起こすようにして成長してきたNetflix。
「人間まるだし。」のキャンペーンが打たれたのが2019年であることを考えると、創業時の哲学が今でも色濃く受け継がれていることが手に取るように分かりますね。
ちなみにリード・ヘイスティングス氏の著書「No Rules」では、
このように、一般的な会社ではなかなか想像できない自由な社風で会社が運営されていることが書かれています。もちろんこれは『全裸監督』をオリジナルドラマとして制作した日本法人でも同じことが言えるでしょう。
そもそも「AV業界」を舞台にした作品を制作し全世界で配信できるプラットフォームを僕はNetflix以外に知りません。(笑)
『全裸監督』の他にも、最近話題になった相撲ドラマ『聖域-サンクチュアリ-』では、大麻薬取締法違反の罪に問われたピエール瀧さんを相撲部屋の親方役に抜擢していたことも記憶に新しいです。
一般的な常識を破り、テレビや他の配信サービスではなかなかマネできないコンテンツを制作し発信続けていることこそ、Netflixならではのエンタメに対する姿勢と言えるでしょう。
さまざまな背景を知った上で『人間まるだし。』を見ると、いろんな意図がこめられていることがわかります。
まずは、Netflixの姿勢を表明するという意図。
真実 欲望 本能 興奮 憎悪 快楽 狂乱 嫉妬 絶望 狂気
ナレーションでも語られているこれらの全てを「人間そのものである」と言い切ったところがすごいです。「隠さなくちゃいけない」「目を逸らさないといけない」と思われがちな感情を「Netflixなら『まるだし』にできる」と表明できています。
そしてもう一つは『全裸監督』をプロモーションするという意図。
「まるだし」という単語からは「R-18」「お下品」のような少しアダルトなイメージが香ってきませんか?(僕だけですかね…)この単語のチョイスには、Netflixの姿勢はもちろん、全裸監督という作品の特性を見事に表現されていると感じます。
最後に映像表現です。背景やコピーを分析してから見ると、そのメッセージ性の強さが際立ちます。
最初に目に飛び込んでくるのは一面黒塗りになった本。
情報を隠蔽する際に使用されがちな「黒塗り」という表現はとても鋭いメッセージです。
その中でも僕が個人的に好きなのがナレーションの冒頭。
美しい時代です。
誰もが「正しさ」に燃え、「正しくない」表現を炎に包む、美しい時代です。
思い切った表現が、どこかで「正しさ」の壁にぶつかるこの時代。
「コンプライアンス」という言葉に塗りつぶされるこの時代。
私たちは今、とても美しい時代を生きています。
「正しい」とされているもの(過剰なクレームや、それを恐れるTV番組)に、真っ向からぶつかることなく、皮肉たっぷりに「美しい時代」と言い切った。この絶妙な表現には驚くばかりです。
人間のおかしみもかなしみも、希望も絶望も、そのすべてに物語がある。
さあ、まるだしの表現を、まるだしの人間を。
Netflixが提供できる「価値」の説明に移ります。Netflixが追い求めるのは「美しさ」ではなく「まるだしの人間」。
それを宣言するかのように、次々と本のページを破っていく演出。有名タレントを起用しないどころか人の表情すら出てこない、しかもほぼ固定カメラで展開されるにも関わらずここまでの力強さ。脱帽です。
最後に、オンリーワンの価値を訴求する「Netflixなら見れる。」というコピー。直球勝負に痺れますね。(「見れる」というくだけた言葉選びが、余計に「人間らしさ」を強めている気がします)
さて。第一回の分析ブログ。名作すぎて痺れっぱなしでございました。
次は僕から巻木さんにお題を出す番です。巻木さん、こちらのコピーを分析してください。
「胸をしめつけるのは 恋だけでいい」
高校、大学と強豪校で野球漬け。
新卒で入社したのはスポーツ新聞社で担当はプロ野球。
経歴から漢の匂いがぷんぷんする巻木先輩。
僕の甘酸っぱい恋バナに1mmも共感を示したことがない巻木先輩。
(多分)恋に胸を締め付けられたことがないであろう巻木先輩が、女性に絶大な共感を得た女性用下着のキャッチコピーの、どこに共感して、どう分析するのかが見ものです(生意気にすいません)
ってな感じの無茶ぶりで今日は終わりにしたいと思います!みなさん、次回もお楽しみに!!