
いま、日本企業の多くが「採用難」という壁に直面しています。
帝国データバンクの調査(2024年10月)によれば、正社員の人手不足を感じている企業は全体の51.7%に上り、特に中小企業ではその傾向が顕著に。この記事を読んでくださっているあなたの会社も、採用に苦戦しているかもしれません。
こうした状況の中、注目されているのが社員のつながりを活かすリファラル採用です。
リファラル採用は、採用コスト削減やマッチング精度の向上、そして組織全体のエンゲージメント強化など、数多くのメリットを持つ採用手法。
この記事では、400社以上の企業ブランディングを行い採用を含む企業課題の解決をサポートしてきたトゥモローゲートが、これまでのノウハウや成功事例をもとにリファラル採用を解説。メリットやデメリット、導入方法、インセンティブ設計、成功事例、トラブル防止策を中心にお伝えします。
リファラル採用とは?
リファラル採用とは、社員が候補者を推薦し、会社が選考する採用手法を指します。リファラル(referral)とは「紹介」という意味で、既存社員のつながりを活用して人材を採用する仕組みです。
導入する企業は年々増えており、実施企業は2018年から約21%増加しています。また、「制度は無いが紹介実績がある」という企業(18%)を除くと、リファラル採用を実施していない企業は20%以下。多くの企業で、リファラル採用が定着しつつあることが分かります。
(TalentX「リファラル採用の実施状況に関する企業規模・業界別 統計レポート 2025年版」より)
リファラル採用と縁故採用との違い
本題に入る前にお伝えしておきたいのが、リファラル採用と「縁故採用」の違いです。この2つは混同されがちですが、実は明確な違いがあります。
縁故採用が「社員や経営陣の個人的な縁」に基づいて採用を進めることが多いのに対し、リファラル採用は透明性の高いプロセスを通じて候補者を公平に評価します。この仕組みが、企業と候補者双方にとってメリットをもたらしています。
リファラル採用の進め方
ここからは、私たちが実際にリファラル採用を導入する際に重視した3つのことをご紹介します。
①社員が紹介したくなる会社づくりから始める
リファラル採用は、単なる「紹介」ではありません。既存社員が自社に誇りや愛着を持ち、自然と「知人を紹介したい」と思うことが必要です。
そのため弊社では、社員への理念浸透やそれに基づいた制度設計、どのような社員でも働きやすい環境づくりなどを行い、社員エンゲージメントやモチベーション向上を図っています。これにより「社員が紹介したくなる会社づくり」を体現しています。

②簡単で透明性の高い仕組みをつくる
リファラル採用は、社員の負担が少ない仕組みでなければ継続は難しくなります。
弊社では、紹介したい人がいればいきなり役員面接に案内できる制度「リファラルチケット」を導入。社員からの紹介で会社の価値観に合った求職者が多いため、通常よりも選考期間を短縮しての実施が可能となり、社員も誘いやすくなっています。
また社員から提案があり、社員食堂を活用した「ランチ無料招待」制度もスタート。紹介したい友人や知人を気軽に誘うことができる機会となっており、多くの社員が活用しています。
③紹介者(社員)への感謝を具体化する
リファラル採用を進める上で忘れてはいけないのが、紹介者してくれた社員への感謝。紹介してくれた社員を賞賛したり、チームで成果を共有することも、社員のモチベーションを高めるポイントになります。
紹介から採用が決まった場合、弊社では「リクルート制度」として社長からお寿司や焼肉などをご馳走してもらえる制度を用意。さらに、通常の評価指標で測りにくいため、「評価外の加点評価」によって還元を行い、社員の努力をしっかりと認める評価制度を取り入れています。
リファラル採用のメリット
リファラル採用は、単に採用強化につながるだけではありません。具体的にどのようなメリットをもたらすのか、私たちの実体験をもとにお伝えします。
■採用コストの削減
求人広告やエージェントの利用に比べ、リファラル採用はコストを抑えやすいです。社員紹介という形で候補者が集まるため、採用費用の削減が期待できます。
■ミスマッチの軽減
紹介者が自社の文化や業務内容を理解した上で推薦するため、候補者との文化的なマッチング精度が高いのが特徴です。これにより、採用後の定着率も向上します。
■組織全体のエンゲージメント向上
リファラル採用に積極的に参加する社員は、会社への帰属意識や貢献意識が高まると言われています。これが結果的に組織全体のエンゲージメント向上につながります。
■採用プロセスの短縮
一般的な採用では「応募 → 書類選考 → 面接(複数回) → 内定」といったプロセスを経るため、最短でも1ヶ月~3ヶ月程度かかることが多いです。
しかし、リファラル採用では、社員がすでに候補者の適性をある程度把握しているため、面接回数を減らし採用までの時間を短縮できます。
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従来の採用プロセス(平均2~3ヶ月)
①応募
②書類選考
③一次面接
④二次面接
⑤最終面接
⑥内定
⑦入社
↓
リファラル採用のプロセス(平均2~4週間)
①社員が候補者を紹介
②面接
③内定
④入社
※一般的な例のため、会社によって異なります
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■企業文化の強化
リファラル採用では、紹介する社員と紹介される候補者が「価値観が合う」「同じ志向を持っている」ことが多いため、企業文化を強くする効果があります。
また、リファラル採用によって企業文化に合った人材が増えていくと、会社全体の一体感も増し、組織としての強みをさらに濃くできるのもメリットです。
■競争の激しい市場でも優秀な人材を採用しやすい
近年、特にエンジニア・デザイナー・マーケターなどの専門職は採用競争が激化しており、転職市場に出てこない「優秀な人材」を確保することが難しくなっていると言われています。
しかし、リファラル採用では、転職活動をしていない「潜在層」の優秀な人材にもアプローチできるため、競争が激しい市場でも効果的に採用が可能です。
例えば、「今すぐ転職は考えていないけど、良い機会があれば興味がある」という人は転職サイトには登録しませんが、信頼できる知人からの紹介であれば「話を聞いてみよう」と思うケースがあります。
- 市場競争の激しい業界で優秀な人材を確保しやすい
- 転職潜在層にもアプローチできるため、母集団が増える
- 社員経由なので、候補者の安心感が高まり、辞退率が低い
このように、リファラル採用は「良い人材がなかなか見つからない…」という企業にとって大きな武器になるのです。
成功事例:小売業のリファラル採用成功事例(トゥモローゲートの支援実績)
リファラル採用は、単なる採用手法の改善ではなく、企業の採用文化そのものを変革する力を持っています。ここでは、とある小売業の会社がリファラル採用を導入し、短期間で成果を出した事例をご紹介します。
課題:慢性的な人手不足と採用コストの増大
この企業は、地域密着型の経営を展開しながらも、深刻な人手不足に悩んでいました。特定の店舗では慢性的にスタッフが不足しており、求人広告を出しても応募が集まらない状態が続いていました。
さらに、通常の求人手法では、採用コストがかさむ一方で、定着率の低さも大きな問題でした。短期間での離職が相次ぎ、店舗運営にも支障をきたす状態に。
施策:リファラル採用を提案し、短期間で成果を創出
この課題を解決するために、私たちはリファラル採用の導入を提案。リファラル採用は、企業全体での協力が必要な採用手法です。そのため、経営層の理解と賛同をいただいたのち、下記の流れで導入していきました。
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①最も採用に困っていた店舗から導入開始
リファラル採用の効果を最大化するため、特に人手不足が深刻だった店舗にフォーカスし、「まずはこの店舗でテスト導入する」という戦略で実施。
②社員への呼びかけを強化し、紹介を促進
「リファラル採用で自分の働きやすい環境を作ろう!」というメッセージを掲げ、社員に積極的な紹介を依頼しました。
③紹介者のフォロー体制を整備し、採用確度を管理
紹介された候補者を「A~Dの採用確度(ヨミ)」で管理し、毎週進捗をチェック。これにより、「どの候補者が、どのタイミングで採用に至りそうか」を可視化しました。
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その他にも、新人が早期に活躍しやすい環境を整える「バディ制度」、店舗スタッフ同士が「ありがとう」を伝え合う「サンクスボード」を提案。既存社員のモチベーションを高める組織文化づくりもサポートしました。これらの取り組みを通じて、紹介しやすい職場環境を構築することに成功しました。
結果:導入からわずか2ヶ月で採用成功
リファラル採用の導入後、これまで広告を出しても集まらなかったところから、社員からすぐに5名の候補者が紹介されました。その後、毎週の進捗管理を行いながら、2ヶ月間で1名の採用に成功しました。
■導入効果
・求人広告なしで5名の候補者獲得
・採用確度を可視化し、採用スピードを向上
・2ヶ月で1名の採用に成功(通常より短期間)
・社員自身のエンゲージメントも向上
リファラル採用のデメリットと注意点
ここまでメリットや成功事例をお伝えしてきましたが、デメリットを把握しておくことも重要です。実際にリファラル採用を導入される際は、下記の点に注意して進めてみてください。
■社員に負担がかかる可能性がある
社員がリファラル採用に積極的に参加しすぎると、通常業務に支障をきたすことがあります。企業側は、社員が無理なく参加できる仕組みを整えることが大切です。
■候補者に偏りが出てしまう場合もある
社員の人間関係に依存するため、候補者が特定のグループや属性に偏る可能性があります。この問題を防ぐために、公平な選考基準を設けることが重要です。
■トラブル防止
リファラル採用では、推薦者と候補者が親しい場合もあるため、採用後のトラブルを未然に防ぐ工夫が必要になってきます。
これらの注意点を踏まえ、トゥモローゲートでは以下の点を念頭におき運用しています。
- 全社員に対して強制的に紹介してもらうようなノルマ設定はしない
- あくまで社員自らが自然と紹介したくなるような組織づくりを常日頃から行う
まとめ:リファラル採用で組織の未来を創る
リファラル採用は、採用コスト削減や社員エンゲージメントの向上など、組織に多くのメリットをもたらします。しかし、注意点や課題にも目を向け、公平性と透明性を重視した仕組みづくりが重要です。
リファラル採用の導入を考えている企業の皆さんは、ぜひこの記事を参考にしていただき、自社に合った形でリファラル採用を進めてみてください。その結果、社員のつなぐ縁が強いブランドへと繋がり、新たな未来を切り拓いてくれるはずです。

田原 莉奈
TEL 06-7167-3950