
社員食堂は、会社の縮図。
どんなものを、どんな空気の中で、どんな会話をしながら食べているのか。
「会社の素」が一番わかりやすく出る場所だと思っています。
私は、ブランディングを生業とするトゥモローゲートで社員食堂を任されている専属シェフ。リッツカールトン大阪や在フランス総領事館などで経験を積み、現在は「日本一オモシロイ社員食堂」の実現を目指しています。
自社の理想をつくるために、他社の社食から学ぶ。
このブログは、僕たちが日本一になるまでの記録です。
記念すべき第1回は、利用者数 No.1レシピサービスを提供する「クックパッド」の社内キッチン。
“料理する体験”を事業の中心に据える会社が、社員食堂をどう設計しているのか。
そこには、思わず唸ってしまう仕掛けがありました。
※本記事は、筆者がクックパッド株式会社の公開情報および理念に基づき、一人の料理人としての視点で独自に考察したものです。
同社との直接的な資本関係や公式なタイアップではありませんが、その素晴らしい取り組みへの敬意を込めて執筆いたしました。

社員食堂なのに、料理が出てこない?
クックパッドのオフィスには、いわゆる“完成されたごはんが出てくる社員食堂”がありません。
あるのは、社員が自由に使える共用キッチン。
食材も、調味料も、調理器具も、ぜんぶ会社持ち。
でも、誰かが料理を提供してくれるわけじゃない。
社員が、自分たちで考えて、つくる。
正直、最初は思いました。
「いやいや、管理も大変そうだし、効率悪くない?」って。
でも、クックパッドという会社を知れば知るほど、
このキッチン、めちゃくちゃ合理的なんです。

クックパッドは「レシピの会社」じゃない
クックパッドって、レシピを載せている会社だと思われがちですが、
本質はそこじゃない。
彼らがデザインしているのは、
「料理する体験そのもの」。
「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」
この理念を、頭じゃなくて身体で理解出来るのが、このキッチンです。
何をつくろうか悩む時間。
冷蔵庫を見て、材料を工夫する瞬間。
誰かと一緒につくって、食べて、笑う時間。
この一連ぜんぶが、クックパッドの事業領域。
だからこそ、
“完成された料理を出す社員食堂”は、あえて選ばれていない。
社員食堂ですら、料理する体験を奪わない。
ここまで企業文化と社員食堂がしっかり噛み合っている会社を見ると、社食研究家(自称)のシェフとして興味をそそられないわけがありません。

社食が、そのまま事業の実験場になる
この社員食堂、ただのお腹を満たす場所じゃない。
事業のアイディアやフォーマットをすぐに実証できる環境になっているんです。
忙しい中で、どうしたら人は料理したくなるのか。
どんな動線だと、自然と人が集まるのか。
料理は、どうやってコミュニケーションを生むのか。
クックパッドの社員さんが、こんな話をしている記事を読みました。
「パソコンの前で考えていた仮説も、実際にレシピを見ながら料理すると、全然違う気づきがあるんです。例えば、『材料の表記、もっと右にあった方が見やすいな』とか。クックパッドが“キッチンツール”として本当に使えるか、日々検証できている感覚ですね。」
これ、最高じゃないですか。
社員が毎日料理をしながら、無意識にプロダクト思想を身体で理解している。
会議室で100回議論するより、
キッチンで1回包丁を握った方が、よっぽど本質に近づける。
僕は本気でそう思いました。

トゥモローゲートの社食と、同じ匂いがした
クックパッドの社員食堂を調べていて、
「あ、これトゥモローゲートと同じだな」と思いました。
僕たちの社員食堂も、
ただお腹を満たす場所じゃありません。
目指しているのは健康的で美味しいだけではなく、圧倒的に新しくてオモシロイ料理。
もちろん栄養的な視点や美味しいことは大前提に、今この瞬間しかできない食体験に重きを置いています。
例えば、酢豚や麻婆豆腐などの一般的なメニューでも見た目から普通とは全く違う料理に仕上げ、見て、食べて楽しめて周りの人と感想を言い合いたくなるような料理を作っています。(TikTokで動画配信もしているのでみてください)
そうすることで自然に人が集まり、普段あまり話さない人とも会話が生まれ、
新しい発想や仕事が生まれる。いろんな個性が混ざり合い会社としての齟齬がなくなる。そんな場所になっています。
クックパッドとトゥモローゲートに共通しているのは、
社員食堂を単なる福利厚生ではなく、文化を育む仕組みとして捉えているところ。
会社の思想と、社員食堂の在り方がズレていない。
ここに、オモシロイ会社の条件がギュッと詰まっている。
クックパッドの社員食堂は、
効率的でも、万人受けでもありません。
でも、会社の想いを毎日キッチンで体感できる社員食堂です。
社員食堂は、会社の縮図。
そして僕の経験上、
オモシロイ社員食堂がある会社は、だいたいオモシロイ仕事をしています。
シェフの考察
このシリーズでは、料理のクオリティだけではなく、「会社の思想と社員食堂がどれだけマッチしているか」という観点で読み解いています。
・食体験としての独自性
・文化との一貫性
・事業との親和性
・コミュニケーションを生む設計
など、その社員食堂の特色によって見る点は異なりますが、いずれも「社員食堂が単なる福利厚生にとどまらず、企業の姿勢や価値観を体現する場になっているかどうか」を重点的に検証しています。
その視点から見た今回のまとめがこちら。
事業との圧倒的な一貫性
「料理をつくる体験」を売る会社が、自らも料理をつくる。
この一貫性が、プロダクトの説得力を生んでいる。
「不便さ」を価値に変える設計
効率だけを求めれば「完成された料理」を出すのが正解。しかし、あえて手間をかけさせることで、社員の創造性と主体性を引き出している。
「体感」が「改善」に直結する環境
毎日包丁を握ることで、ユーザーの痛みを自分事として理解できる環境。これこそが、最強の研究開発施設であると言える。
「社員食堂」という枠を超え、企業の姿勢や価値観をここまで体現している場は他にありません。一人の料理人として、その徹底した設計には深く唸らされました。
社員食堂は、会社の思想がいちばん自然に表れる場所かもしれません。これからも【シェフの社食図鑑】では、社食を通して企業文化を読み解いていきます。
次は、どんな“オモシロイ社員食堂”に出会えるか楽しみです。
次回もお楽しみに。
山吹 心之助
トゥモローゲートの専属シェフ。リッツカールトン大阪にて研鑽を積み、在フランス総領事館専属公邸料理人として勤務。帰国後はフリーランス転身後は全国の生産者を巡り、食の環境問題に取り組むキッチンカープロジェクトを実施。2023年10月、トゥモローゲート株式会社専属料理人として参画。「日本一オモシロイ社員食堂」を目指し、日々研究を続けている。
TEL 06-7167-3950

