トゥモローゲート株式会社のコピーライターで、オウンドメディアの編集長をしているまきぎです。前職はスポーツ新聞の記者をやっておりました。
職業柄「インタビューを成功させるコツはありますか」と聞かれることがあります。回答がなかなか難しい質問です。なぜなら、ひとえにコツといっても準備段階、インタビューの最中、インタビュー後とそれぞれでたくさんあるからです。その質問をいただくたびに全てをお答えするのは難しいので日によって違う回答をしていますが、自分の中で「これだ!」という明確な回答があった方が相手にとっても自分にとってもいいと思ったので1本の記事にまとめることにしました。次、同じ質問をいただいた時には「この記事を読んでみてください」と言えるように。
お仕事でインタビューする機会のある人や、これからインタビュー関連の仕事に就きたいと思っている人にとって少しは参考になるかと思います。ちょっと長いですが(というかまあまあ長いですが)よければ最後までお付き合いください。最初にキーワードだけ挙げておくと「接待」です。ただ話を聞けばいいというわけではなく、相手を接待するようにおもてなす。そんな取材を実現するために、やるべきことを紹介していきます。
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インタビューする相手の情報が載っているモノにはすべて目を通し、相手のことを徹底的に調べます。相手が著名人や経営者であれば著書やインタビュー記事などが対象になりますし、相手が一般の方の場合はSNSや所属する組織(会社など)のホームページなどが対象になります。それらに書いてある情報をくまなくチェックしていると「もっと知りたい!」という感情が出てきて、いつのまにかその人のことが気になって仕方なくなります。インタビューにおける下調べのゴールはココだと私は考えています。
なぜ、気になって仕方がなくなったところがゴールなのかというと、気になっている相手に対しては聞きたいことが湯水のように湧き出てくるのが人間だからです。恋愛に例えると分かりやすいかも知れません。気になっている人に聞きたいことと、そうでもない人に聞きたいこと、どちらの数が多いかはいうまでもありませんよね。それと同じような状態を、インタビューする前に作ってしまうんです。そうすれば「何を聞けばいいんだろう」「どんなふうに話を展開すればいいんだろう」という不安は払拭することができます。
「なんとなく苦手だったけど、知ってみたら意外と気が合うことが分かって、友達になった」みたいな経験はありませんか?人間の「嫌い」という感情は「よく知らない」という感情に似ているといわれています。逆もしかり。「好き」という感情は「よく知っている」と似ているんです。ほら、「めちゃくちゃ詳しいけど嫌い」なモノやコトやヒトって、そこまで多くありませんよね。相手のことを調べて、詳しくなって、好きになる。インタビューの準備において最初にやるべきことです。
相手のことを好きになったら次は質問内容をまとめていきます。相手のことが気になって仕方がない状態ですから、聞きたいことが湯水のように湧き出ていことでしょう。とはいえ全ての聞きたい質問をできるほどの時間は多くの場合与えられていないので、中でも特に聞きたい質問の選抜チームを構成していきます。選抜する手順としてまずやるべきなのは、インタビューした内容がどんな媒体に掲載されて、どんな人に読んでもらって、読んでもらった人にどんな感情を抱いてもらって、どんな行動を起こしてもらいたいのか…を考え抜くことです。
トゥモローゲートのコピーライターとして行うインタビューは主にwebサイトやパンフレットなどの媒体に掲載されます。その媒体を見るのはお客様の商品やサービスを利用する人、もしくはお客様の会社への就職を考えている人が主です。介護会社を例に挙げてましょう。企業サイトなら「どこで介護をしてもらうか迷っている方とそのご家族」が読者になりますし、採用サイトなら「介護士として働いてみたい!」と思っている求職者になります。そういった方々にこのインタビュー記事を通してどんな感情になってもらいたいのか、どんな行動を起こしてもらいたいのかを考えた上で質問を選んでいきます。具体的な選び方は以下のような流れ。
どこに介護をしてもらうか迷っている方とそのご家族は「安全で安心な介護会社に面倒を見てもらいたい」と思っていることが想定できます。となると聞くべきなのは「お客様が安全・安心と思ってくれるであろう御社の強みは何ですか?」になります。これでも十分、目的を達成することはできますが、さらに具体的に聞くことができれば理想的です。若くて元気な介護士さんは多いですか?業界平均と比べてどれくらい若いですか?どんな介護士研修を行っていますか?など、お客様が安全・安心と感じられる要素を引き出していくんです。「読んでくれる人にどう感じてほしいか」から逆算することでインタビューで聞くべき質問の精度は上がっていきます。
まとめた質問を持っていざ当日!…でもいいですが、当日を迎える前に取材相手にアンケートに答えてもらうことができれば理想的です。アンケートの目的は心の準備をしてもらってインタビューの内容を濃くすること。インタビューを受ける側の気持ちになってみるとアンケートの必要性が分かりやすいかもしれません。どんな質問をされるのかわからないぶっつけ本番のインタビューと、質問内容や流れが共有されているインタビューとでは心持ちは違いますよね。後者のほうがリラックスして臨めるハズです。リラックスしてインタビューに臨めるということはホンネに近い回答が出てきやすいということであり、インタビューの質が高くなるということでもあります。
ちなみに、ここで言うアンケートで求める回答はザックリしたものでいいというのが私の考えです。たとえば「仕事でやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?」というアンケートに対して「お客様に“ありがとう”と言われたとき」くらいの回答があれば十分。この事前情報があるだけでインタビュー当日の展開が予想でき、スムーズに取材を進めることができるからです。
事前情報が無いと「仕事でやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?」という質問からスタートしなければいけません。スムーズに回答が出てくれば問題ありませんが、当日にいきなり聞かれたら「んー。やりがいですか。そうですね…」と悩む方がほとんど。限られたインタビュー時間のロスにつながるだけでなく、相手が「いい回答ができなくて申し訳ない」という感情を抱いてしまい、空気が重くなる可能性もあります。こういった事態を避ける意味でもやはり事前アンケートは必須だと私は考えます。
もし、インタビュー当日までの時間が少なく、アンケートに回答いただける十分な時間がない場合は「こんな質問をされるんだな」と分かるレベルの質問表を事前共有するようにしています。事前に質問を知っているだけでもある程度の心の準備ができるので、何もしないぶっつけ本番よりは質の高いインタビューをすることができます。
アンケートの回答が返ってきたら、インタビュー時間と照らし合わせながら当日の流れをシミュレーションをしていきます。①何があっても絶対に聞かなければいけない質問②できれば聞きたい質問③時間に余裕があれば聞きたい質問と優先度で質問を分けていき、1時間なら1時間のインタビューでどの質問にどれくらいの時間をかけられるのかを考え、頭の中で構成を組み立てていきます。
構成を組み立てるだけでも準備としては十分。その上で、実際に声を出してシミュレーションができると最高です。小声でもいいので構成に沿って仮想のインタビューをするイメージです。なぜそんなことをするのかと言うと「声に出して初めて分かることがあるから」です。プライベートのトークや仕事のプレゼンで声に出したら当初は考えてもいなかった言葉や例え話が出てきた経験ってありませんか?私はかなりの頻度で経験するのですが、インタビューでも同じことが起こるんです。
構成が固まっていたとしても、構成を紙やドキュメントにまとめていたとしても、声に出してみないと分からないことがある。それをインタビュー当日までに把握しておくことでより質の高いインタビューができると思っています。そのため私はオフィスや自宅にて小声で1人リハーサルを行うようにしています。誰かに見られたら怪しい目を向けられることもありますがそこは我慢。インタビューで失敗しないためには必要なので気にせず実践してみてください。
準備ができたら次は実践です。インタビューの冒頭にやるべきことは一つ目の質問をぶつけることではありません。相手の緊張を解くことです。インタビューに慣れていない人は取材に対して緊張感を抱いている場合が多いです。自社にしかない強みをアピールした結果「他者批判」と受け取られたらどうしよう…とか、社外秘の情報をうっかり話してしまったらどうしよう…などの心配からくる緊張です。その緊張をぶちこわすのもインタビュアーの仕事。だから私はインタビューの冒頭で必ずこうお伝えします。
「インタビューで話したことがそのまま世の中に発信されることはありません。弊社でも、御社でも何度もチェックを重ねた上で初めて発信されます。ですからこの場では心置きなく話していただいて大丈夫です」
トゥモローゲートが担当するインタビューの記事というのは多くの場合、自社とお客様合わせて4、5回のチェックを重ねた上で世の中に配信されます。誤字脱字や事実誤認のチェックはもちろん、意図とは違う受け取られ方をされる表現が含まれていないかや、そもそも記事のクオリティは十分なレベルかどうかなど。それらのチェックを欠かさないという背景を事前にお伝えすることで「思ったことをありのまま喋ってもいいんだ」と感じてもらうことが大切です。実際に「気がラクになりました!」と言っていただくことがこれまで何度もありました。
緊張感をぶちこわすオススメのアプローチ方法がもう一つあります。それは「常に相手よりもハイテンションでインタビューに臨むこと」です。取材に慣れておらず、なかなか答えが出てこない人がいたとします。そんな人でも友達とのプライベートの時間ではお喋りなハズですよね。ということは、インタビューでプライベートに近い雰囲気をつくればいいんです。そのために必要なのが「楽しい時間にしたい」「純粋にあなたの事が知りたい」といった姿勢をテンションで示すこと。自然と緊張感はなくなり、狙い通りの回答が得られること間違いなしです。
回答を一語一句メモする方もいらっしゃいますが、私はそれをすると目を見て話を聞くことができなくなったりあいづちを打てなくなったりしてしまいます。インタビューは相手との対話です。一方的に話をしてもらう場所ではありません。にもかかわらず聴く姿勢がおろそかになってしまっては本末転倒なので、一語一句メモをすることに対して私は懐疑的な意見を持っています。ではどうしているのかというと「追加で詳しく聞きたいな」と思ったことだけをメモするスタンスを採用しています。
例えば入社を決めた理由をお伺いした時に「父の影響でこの業界に興味を持って、いろいろな会社を調べているうちに“いいな”と思ったんです」という回答があった場合「父の影響とは?」の7文字だけをメモします。この場合のメモはノートを見ずに(相手と目を合わせた状態で)ササっと書き残すレベル。数日後に読み返すと何を書いているのか全くわかりませんが、相手が回答し終えたタイミングで読み返せばギリ理解できるので「先ほどおっしゃっていた父の影響とは具体的にどういうことなのでしょうか?」と質問を繋いでいきます。
すると「あ、実は父が同業の会社を経営していまして。小さい頃からこの業界の話をずっと聞かされていたんです」と具体的なエピソードが出てくるかもしれません。このように、回答で気になった文言だけをメモして、次の質問に使用して、また気になった文言をメモして、を繰り返していきます。そうすることでより具体的な話を引き出すことができますし、さらには相手から目を離さなくてもいいので、聴く姿勢としても満点を叩き出すことができるんです。メモは次の質問だけ。意識してみてください。
話が逸れたとき、逸れた話題に合わせるのか、早々と打ち切って話を元に戻すのか、迷う人も多いかと思います。ここで大切なのは、合わせるか戻すかの判断基準を明確に定めておくことです。例えば私は「本来聞きたかったことよりもオモシロイコンテンツが作れると確信できた場合は逸れた話題に合わせる。そうでない場合は早々と打ち切って話を元に戻す」と決めています。これはどんな相手でも、どんなインタビューの内容でも共通しています。
本来聞きたかったことよりもオモシロイコンテンツが作れるかどうか?の見極めは簡単ではありません。なぜなら「このインタビューで聞いたことはどの媒体に、どのようなスタイルで掲載され、それによって何を伝えたいのか」がバッチリ頭に入っておかないと見極められないからです。インタビューの準備段階でバッチリ頭に入っていたとしても、実際にインタビューを進めるうちに見失ってしまうことは多々あります。インタビューの経験の浅い若手時代はこの点で相当苦労しました。
合わせるか、戻すかの基準が曖昧なままインタビューが進んでしまうと、本来聞きたかったことが満足に聞けていないだけでなく、代わりになるコンテンツもないという結末を迎えてしまいます。どうなったら合わせるのか。どうなったら戻すのか。この基準を明確にした上で、相手がどれだけすごい経営者でもその基準通りに場をコントロールする力が求められます。もちろん相手が不快に思うような話の戻し方はしてはいけません。「逸れていい話とよくない話を見極める」とだけ聞くと簡単そうですが、実はなかなか高度なテクニックが必要だと私は思っています。
インタビューに慣れていない人にありがちなのが伝えたいことはあるけれどうまく言葉にできないです。「なんて言えばいいんですかね…んー…」と言葉に詰まってしまうシーンはよくあります。こんなシーンに出くわしたときにインタビュアー(聞き手)がやるべきことは代わりに言語化してあげることです。例えばこんな感じ。
相手「プロジェクトが無事に成功した時は感動しましたね」
自分「仕事で感動できるっていいですよね。ちなみにどれくらい感動しましたか?」
相手「どれくらい?んー…難しいですね…」
自分「例えば、学生時代に部活動で試合に勝った時と似たような感動とか?」
相手「あ、たしかに!甲子園出場が決まった時の感動と仕事の感動は似ているかもしれません!」
このように言語化をお手伝いすることができれば「甲子園並みの感動を味わえる仕事」という表現ができます。逆に言語化しなければ「感動する仕事」というどこにでもある表現にとどまってしまいます。「誘導質問で失礼じゃないか」と思う人もいるかもしれません。ただ、インタビューに慣れていない人は話のプロではありません。一方のこちらは聞くプロです(少なくともプロだという自覚を持たなければいけません)。うまく話せず困っている相手が目の前にいるのに言語化をお手伝いしないのは聞くプロとして失格だと私は思います。
もちろん相手が「あー。部活動ですか。甲子園に出ましたが、その時の感動に比べたら仕事の感動は大したことありません」と回答したのに「甲子園並みの感動を味わえる仕事」と表現すると「嘘」になってしまいます。相手が思っていることを言語化して表現に落とし込むのは「脚色」ですが、思ってもいないことをこちらのエゴで無理やり表現に落とし込むのは「嘘」。私はこの線引きを大切にした上で思いきり「脚色」することを目指しています。
インタビュアーは「自分の話はどこまでしてOKなのか?」と悩む事があります。インタビューの目的は相手の話を聞き出すことですから自分の話なんて最低限でOKと考えるのは自然かもしれません。ただ私は一概にそうは言えないと思っています。1時間も2時間もぶっ通しで話すって、疲れます。特にインタビューに慣れていない人にとっては大きな負担です。だからこそこちらが話す時間を意図的に作って相手に休憩時間を与えることが大切だと考えています。
例えば相手に疲れの色が見えてきたとします。そんな中で人生のターニングポイントについて「結婚」が挙がった場合、私は迷いなく自分と結婚に関する話を展開します。相手に疲れた様子などなく、ノリノリで話されている場合はもちろん聞き手に徹しますが、疲れている場合は自分の話をして相手に休憩時間を与えるんです。休憩時間の長さは細かく気にしなくて大丈夫。自分の話が一区切りすればまた「話が逸れてすみません…」なんて言いながら質問に戻っていきましょう。
これはインタビューのコツでもありますが、そもそも人に対するおもてなしの話だとも思っています。「インタビューなんだから話してもらって当然だ」という前提でインタビューに臨んでいると、この休憩時間を与えるという発想には至りません。聞くだけでなく、おもてなす。この意識で臨むことがインタビュアーの使命だと考えます。
「いい話を聞き出すにはどうすれば良いですか」と聞かれたときには「なぜ?を繰り返す」と答えるようにしています。いい話が出てくるまでとにかく「なぜ?」を繰り返すんです。といっても単純に「なぜ?」だけを言葉にするのではなく「〇〇さんはなぜ今の職業に就いているんですか?」「なぜ一度も転職を考えなかったんですか?」「なぜ40歳になった今起業しようと思ったんですか?」と具体的な話をしてもらえる質問を投げかけてください。
インタビュー記事がおもしろいかどうかはエピソードがおもしろいかどうかとほぼ同義。そしてそのエピソードは「なぜ?」を繰り返した先に見えてきます。インタビュー記事のクオリティを左右するエピソードを聞き出すために「なぜ?」を繰り返してみてください。あまりにも無愛想に「なぜですか?」「なぜですか?」と繰り返すと相手の気分を害してしまいますからそこだけは気をつけてくださいね。
ここまで紹介したことを徹底すれば、インタビューの経験が浅い人でもきっとうまくいきます。少なくとも「失敗した…」と肩を落とす結果にはなりません。ぜひ参考にしてみてください。
最後に私がインタビューにおいてひそかに設定しているゴールをお伝えしたいと思います。それはインタビューが終わったあと、相手が自分と2人で飲みに行ってくれるか?です。インタビュアーと受け手は、形式上は仕事だけのお付き合いですが、実際にはお互いのパーソナルな情報を明らかにしますから、そんなに親交の深くない同級生や同僚なんかよりもお互いのことを理解するという不思議な関係でもあります。
そんな濃密な時間を過ごしたあとに相手が自分と2人で飲みに行ってくれるか?
もちろん「僕と飲みに行けますか?」なんて実際に聞くわけではありませんが「この雰囲気であればサシ飲みのお誘いをしても嫌がられないだろうな」という実感を持てることを自分の中でのゴールにしているんです。サシ飲みできる相手って、限られていますよね。毎日いっしょにいる同僚か、本当に仲の良い友人が、恋人くらいですよね。そんな人たちと同じくらい近い距離感にたった1時間や2時間のインタビューを通して取材相手となることができるか。
難易度は相当高いです。しかし大切なのは「サシ飲みできるくらいの関係になるぞ!」と意気込んでインタビューに臨むことです。それくらいの意気込みがあれば準備には手を抜きませんし、当日はハイテンションで臨みますし、相手のことに興味を持っているから的確な質問をドンドンぶつけることができます。冒頭にも書きましたが、ただ話を聞くだけじゃなく相手を接待するかのようにおもてなすことが大切です。さあ、これからインタビューに臨むあなたも意識してみてください。インタビューが終わったあと、2人で飲みに行ってくれるか?