企業のビジョンを実現させた5つのキャッチコピー

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たった1行のキャッチコピーが行き詰まっていた企業の突破口となり、あるいは商品のブランド構築を成功させ、時には時代や文化をつくっていった。そんな実例があるのをみなさまはご存知でしょうか。トゥモローゲート株式会社のコピーライターとしてキャッチコピーに関するさまざまな情報に触れている中でそういった実例を知り、同時にキャッチコピーが持つ無限の可能性を痛感し、今回このような記事を書くことに決めました。

題して「企業のビジョンを実現させたキャッチコピー」。私たちのよく知るあの企業、あのブランド、あのサービスがたった1行のキャッチコピーから生まれたという事実とそれについての考察を書いていきます。ビジネスを拡大したいと思っている方、商品やサービスをもっと多くの人に届けたい方、キャッチコピーを学んでいる方。たくさんの方々に楽しんでいただけることを目指して書いていきたいと思います。

ココ・シャネル「女のからだを自由にする」

シャネルというブランドが登場する1910年まで女性は“服で自分を犠牲にしなければならない”状況でした。全身のシルエットがくっきり分かるタイトなドレス。足首ほどの長さがあるスタート。全身を細く見せるためのコルセット。女性がそのような窮屈なファッションを強いられていることに疑問を抱き、立ち上がったのがシャネルの創業者であるココ・シャネルでした。彼女は以下のキャッチコピーを掲げて現状の打破を狙ったんです。

「女のからだを自由にする」

まずはコルセットを「女性の自由を奪うもの」と定義し、自身が手がけるファッションブランドから完全追放。代わりに動きやすさを追求したドレスを生み出し、女性をコルセットという名の“束縛”から解放しました。また当時は主流だった女性の両手をふさぐハンドバックではなく両手を使わなくていいショルダーバッグの普及にも尽力。ほかにも女性初のパンツスタイルの提唱や動きやすい“シャネルスーツ”の開発など。女性のファッションを装飾的なものから機能的なものへシフトさせることで女性のからだを自由にしていったのです。

そもそもなぜ、当時の女性は窮屈なファッションを強いられていたのでしょうか。それは“男性が好んだから”という理由が有力とされています。コルセットも、ドレスも、スカートもいわば「男性の趣味」だったんです。当時は世界のほとんどの国で女性に参政権が与えられていないなど、まだまだ男女格差が色濃い時代でした。ファッションにおいても「女性は男性が好きなものを身にまとわなければいけない」という空気があったそうです。

つまり当時の女性は身体的だけでなく精神的にも縛られていたということです。ココ・シャネルはその問題に真っ向から立ち向かった。ただ声を上げるだけでなく、自らのブランドや商才を武器に空気ごと変えていったのです。100年以上経った今でもシャネル=ハイブランドというイメージがあるのはただデザインが優れているからではなく、ただ広告表現がうまいからでもありません。ファッションという切り口から時代を変え、新たな未来を切り開いていったからこそ、長きにわたって愛される、憧れられるハイブランドに君臨していると言えるんです。そしてその“出発点”になったのが「女のからだを自由にする」というたった1行のキャッチコピーでした。

シャープ「まねされる商品をつくれ」

他社がやっていないことをやれ。世の中にない価値を生み出せ。そんな言葉が毎日のように組織内で飛び交う時代になりました。しかしその言葉通りの商品を開発できた例はごく一部。なぜ一部にとどまっているのでしょうか。その原因の一つに挙げられるのが言葉の曖昧さです。他者がやっていないこと?世の中にない価値?響きはカッコいいけれど抽象度が高すぎて、もし自分がその企業の社員だったら何から手をつけていいのか分かりませんよね。そんな中、SHARP創業者の早川徳次さんの言葉は目を引きます。

「まねされる商品をつくれ」

いかがでしょう?

言っている意味はほぼ同じ。でも、「まねされる」という表現になったことで抽象的な言葉が具体的なものに変わり何から手をつけていいのか明確になったと思います。

SHARPという会社は言葉の通りまねされる商品をつくり続けてきました。1912年に現在のベルトのバックルにあたる「徳尾錠」を開発したことを皮切りに、社名の由来でもあるシャープペンシルや、ラジオにテレビに電子レンジまで。今や生活に欠かせないアイテムのほとんどを日本で最初に市場に投入してきました。後を追うように他者が類似商品を発売したのは周知の事実。まさに「まねされる商品をつくれ」を体現してきたんです。

商品のイノベーションはもちろん、SHARPはSNSの企業アカウント運用においてもイノベーションを起こしていると言えます。Twitterのシャープ公式アカウントは2022年1月時点で83万以上のフォロワーを保有。自社や商品のPRに偏りがちな企業アカウントの中では一線を画す発信が人気で、「中の人」の人間味あふれる情報発信が注目を集めています。

この2つを見ただけでSHARPという会社に対してあたたかいイメージを抱きませんか?ここでは「人間味」という切り口でツイートを抜粋しましたが、このアカウントはただオモシロおかしいだけでなく、SHARPという会社や商品、さらには電機メーカー業界にファンがつくように設計されているのがポイント。SNSというジャンルにおいてもSHARPのイノベーションマインドが活用されているのです。その根源にあるのは「まねされる商品をつくれ」という言葉であり、創業者早川徳次のスピリットであることはあえて言うまでもないでしょう。

フェラーリ「一台すくなくつくれ」

ビジネスとはなんらかの商品やサービスをお客様に届けてその対価としてお金をいただくこと。対価を大きくしていくためには商品やサービスの質を磨いていくことが大前提ですが、同時にマーケティングも重要になってきます。ターゲットはどんな人なのか。そのうちの何人が見込み客なのか。求められているニーズに合わせて商品を何台開発すればいいのか。細かく分析をした上でニーズに合わせて生産するのが常でしょう。しかし、かの高級車ブランドフェラーリの創業者であるエンツォ・フェラーリはこんな言葉を残したといいます。

「需要より、一台すくなくつくれ」

彼は販売予測の結果が出ると必ずそう言いました。1000台売れるだろうと予測できたならば「999台生産しろ」と。なぜか。「フェラーリという高級車は常に手に入るものではない」「タイミングを逃すと買うことができない」というイメージを浸透させることでフェラーリの希少価値を高めるためでした。「安くていいものを」という文化が強い日本の感覚では理解するまで時間がかかるかもしれませんが、少し視点を変えると理解速度は上がります。

数枚しか出回っていないアイドルのトレーディングカードやなかなか手に入らないコンサートチケットが一般的な感覚では考えられない価格で取引されているシーンを皆さんも見たことがあると思います。なぜああも価格が高騰するのか。仕組みは単純。品物の数よりも「ほしい」と思う人の数が上回っているからです。そしてその状態を意図的につくっているのがフェラーリなのです。「想定よりもたくさん売れて品切れになったらクレームが来そうだからたくさん作っておこう…」と思ってしまいがち。そこを「一台すくなくつくれ」の言葉に従ってグッと我慢することで、「高級路線」というビジョンに続く道をひた走っているんです。

「高くても買ってもらえる車をつくれ」
「プレミア感のある車をつくれ」

エンツォ・フェラーリの口から出た言葉がこのような表現だったらどうでしょう?今のフェラーリにある高級路線のイメージはつくられていなかったのではないでしょうか。同じメッセージが込められた言葉でも表現ひとつでこうもイメージは変わります。企業やブランドのビジョンを実現するにあたってキャッチコピーがいかに重要か。フェラーリの一例だけでも十分伝わるのではないでしょうか。

良品計画「無印良品」

「無印良品」

いまや当たり前のように使われている言葉ですが、「無印」なのに「良品」ってよく考えると変だと思いませんか。ジャンルを問わず、「良いモノ」にはブランド名という名の「印」が付いていることがほとんど。服にも、バッグにも、車にも、「良い」と評価されているモノには印が付いています。しかし、無印良品にはブランド名(印)がありません。というより“ブランド名がないことがブランド”なんです。

1980年に西友のプライベートブランドとして立ち上がった無印用品。当時の日本は高度経済成長期から数年が経った頃であらゆるものが「派手さ」を追求していて、「良いもの=高級なもの」という方程式が成り立っていたそう。しかしまもなく経済が大打撃を受けたオイルショックなどをきっかけに「派手で高級なものを追求することが本当に幸せなのか?」と疑問を抱く人が増えていきました。そんな潜在的なニーズを読み取って生まれたのが「無印良品」だったんです。派手じゃなくても、高級じゃなくても、印(ブランド)がなくても良いものは生み出せる。高級志向だった世間へのアンチテーゼが無印良品には込められていたんです。

見た目や広告で派手に見せるのではなく、人間にとって本当に必要な機能を追求する地に足がついた打ち出しで、無印良品は着実にファンを獲得していきました。ここで注目しなければいけないのは、低価格だからといって品質が悪いわけではないということ。無駄を削ぎ落としたから価格が抑えられているのであり、機能という点においては高級ブランド品と大きく変わらない。むしろ、機能性では勝っているケースだってあります。

無印良品は今や国内にとどまらず「MUJI」として世界に展開。中国や韓国、イギリスやフランス、シンガポールにタイと世界各国の都心を歩けば「MUJI」の看板に出くわす可能性は非常に高いです。「無印良品」。たった4文字の言葉が時代のニーズをとらえ、ブームを生み、生活に定着し、企業の未来を切りひらいた。改めて言葉の力を痛感させられる事例です。

Wikipedia「誰もが編集できる百科事典」

世界中の誰もが編集できる「Wikipedia」。皆さんも一度は、いや、一度どころか何度もお世話になった経験があるでしょう。そんなWikipediaの始まりは2001年でした。

創始者であるジミー・ウェルズは「ヌーぺディア」というオンライン百科事典を立ち上げました。編集できるのは一部の専門家だけ。現在のカタチとは異なるものでした。しかしそれでは記事の制作に膨大な時間とコストがかかるためコンテンツを充実させることはできませんでした。

伸び悩むヌーペディアの打開策を探していたジミー・ウェルズはいつでも、どこでも、誰でもオンライン上で一つのデータを編集できる「ウィキ編集」という技術に出会い、自ら手がけるオンライン百科事典との融合を思いつきました。こうして生まれたのが「ウィキペディア」であり、「誰もが編集できる百科事典」というキャッチコピーだったそう。

Wikipediaというサービスが当たり前の世の中だからこそ、「誰もが編集できる百科事典」という言葉に違和感はありませんが、当時からすれば「何を言っているのか分からない」レベルだったそう。それもそのはず。百科事典といえば言葉の専門家たちが膨大な時間をかけて作り上げるもので、“誰もが編集なんて出来るわけがない”というのが当時の常識的な考え方でした。

しかし、その後のWikipediaを見ればわかるように、周囲の「?」を横目にWikipediaはどんどん規模を拡大。今では18億以上あると言われる世界のwebサイトの中でアクセス数がTOP10に入るまでになりました。当時は誰もその真意を理解できなかった「誰もが編集できる百科事典」という一言が新しい百科事典の未来を切りひらいたのです。

言葉が企業のビジョンを実現させる

「まねされる商品をつくれ」という言葉がイノベーションの企業文化をつくったように、「一台すくなくつくれ」という言葉が世界最高級ブランドをつくったように、時として言葉は私たちが想像もできない力を発揮し、人々の生活を、文化を、時には時代をも変えてしまいます。未来を志す人や組織にとって「これだ!」と思う言葉を定めることはとても大切。たった1行が企業の未来を切り開き、ビジョンを実現させた例を見るとその重要性は見えてきます。

このブログを書くにあたってさまざま資料に助けられました。中でもコピーライター細田高広さん著:「未来は言葉でつくられる」は大いに参考にさせていただきました。同著にはこのブログで紹介した5つのキャッチコピーについてさらに深く、詳しく考察されており、また他にも企業や商品を未来をつくった秀逸なキャッチコピーの数々について詳しく書かれています。コピーライターじゃない人にとっても学びの多い1冊なので気になる方はぜひ。最後にもう一度商品のリンクを貼っておきます。

■その他の参考資料
映画「ココ・アヴァン・シャネル」
記事「ココ・シャネル」女性に与えた6つの自由
記事シャープ公式サイト「商品ヒストリー」
記事フェラーリが、客にあえて1台少なく売る理由
記事日本ネーミング大賞「無印良品」
記事Wikipedia「ウィキペディア」

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