社員が愚痴ばかり言っている。
発売する商品がことごとく売れない。
クライアントの解約が相次いでいる。
考えるだけでゾッとする経営課題。もしあなたの会社が直面したら、どのように乗り越えますか?直面しないために何をしますか?
そのカギとなるのが「経営理念」です。
明確な経営理念のもと、組織づくり・文化づくりが出来ていれば、このような事態に直面する可能性を下げられます。もし直面しても、ダメージを最小限に抑えることができます。
なぜ、そう言えるのか。
今回のブログでは、経営理念と向き合い、経営理念に沿った経営を推し進めることで組織崩壊の危機を乗り越えた、企業の事例を紹介していきます。生々しいエピソードばかりです。だからこそ、なかなか学ぶことのできない経営のリアルなヒントが隠されています。
INDEX
60人規模→100人規模へ拡大するフェーズにさしかかった時、Goodpatchは「組織がほぼ崩壊」する危機に見舞われました。行動指針を発表するも、浸透に失敗。新メンバーと古参メンバーの対立。全社員共有のコミュニケーションツールに怪文書が出回る。幹部メンバーを含めた大量離職。
…聞いただけでゾッとするような事態です。
背景にあったのは、以下のようなもの。
・組織の成長スピードに、マネジメントノウハウの成長と人材の成長が追いつかなかった
・エントリーマネジメント、つまり採用の窓口がしっかりと整備できていなかった
・経営層とメンバー層など、階層間の意思疎通がほとんどできていなかった
中でも、内部体制が整っていないのに新卒採用を推し進めたことが、さまざまな“軋轢”となり、“崩壊”につながっていったそうです。
壁を乗り越えるきっかけとなったのが、行動指針VALUEの再構築でした。Goodpatchには当初より、目指す未来を示すVISIONや、提供価値を示すMISSIONが浸透していましたが、それらを体現・実現する土台となるVALUEが明確ではなく、浸透もしていませんでした。ここの再構築に社をあげて取り組んだのです。
「社をあげて」というのがこの話のカギです。
経営者だけでなく、経営層だけでもなく、新卒社員を含めたメンバーを巻き込んで、再構築を進めました。なぜVALUEを再構築するのか?の目的をしっかりと伝えた上で、推進するチームメンバーを募集。すると、30名以上が名乗りを上げてくれました。そこでまず実施したのが「価値観を洗い出すワークショップ」です。
VISION、MISSIONの実現に向けて
・維持するモノ
・変えるべきモノ
・取り入れるべきモノ
3点をメンバーで出し合い、コピーライターを交えながら言語化し、VALUEの再構築を完了させました。
また、それらを浸透させるべく、VALUEをビジュアルに表すとどうなるのか?を創り合う「Valueポスター」や、主体的にValueの体現ができる企画をプレゼンする「Xpatch」など、さまざまな企画を実施。かつて失敗に終わったVALUEの浸透を図っていきました。
Goodpatchはその後2020年の6月にデザイン会社として当時初めて東証マザーズ(現グロース)に上場するなど、VALUEの再構築を1つのきっかけに、再び成長曲線を描いていきました。
売上を上げる。利益を増やす。社員を増やす。影響力を高める。
経営における「攻め」に力を注げば、成果は見えやすく、成長を実感しやすいです。しかし、そこだけを見てしまうと“成長痛”に見舞われてしまいます。Goodpatchの場合は「100人の壁」でしたが、組織の拡大期においては、どの規模の会社でも起こり得ること。そうならないために需要なのが、「守り」にも力を注ぐことです。
会社の成長スピードに採用は、育成は、組織体制は、ついていけているだろうか。常に見直しながら経営することが大事です。そしてそこを整備するために欠かせないのが、経営理念なのです。なぜ、この事業をやるのか。どこを目指すのか。そのために日々何を意識して行動するのか。組織の隅々にまでこれが浸透していれば、致命傷は避けることができます。
美容ブランド「BOTANIST」を運営する株式会社I-ne(アイエヌイー)は、BOTANISTが爆発的にヒットしたことで人が足りなくなり、商品の需要はあるけど供給が間に合わない…という危機に直面していました。そこで実施したのが大量採用です。
BOTANISTのヒットを期に、急に売上が40億から80億、160億と倍々成長して、とにかく営業も足りない、受発注担当も、お客様対応も足りない、商品企画も経理も人事も、とにかくすべての仕事において人員が不足していました。
これまでの倍々成長を維持し、2017年以降も急成長を続けていくためにはBOTANISTのヒットに頼るだけではなく、続けて新しいブランドもどんどん生み出さないといけないということで、もっともっと仲間が必要になると見越し、採用を加速していました。
とにかく、忙しい。人が足りない。当時すでにMISSIONのChain of Happinessが存在し、13個の行動指針としてCREDOもありましたが、philosophyマッチよりも、スキル採用をしていました。面接の会話の中で、ちょっと違和感があっても必要なスキルを持つメンバーをどんどん採用していました。
「ちょっと違和感があっても必要なスキルを持つメンバーをどんどん採用していました」
最後の一文にあるこの判断が、組織崩壊を招いてしまったと言います。
何が起きたのか。
それは、成長をさらに加速させるために打ち出した新ブランドが、ことごとく、ユーザーに受け入れられなかったのです。調査結果の甘さ。到底売れるとは思えないキャッチコピー。広告効果検証の甘さ。などなど、明らかに不完全(不健全)な状態でブランドを発売し、打ち出してしまっていたそうです。
これは、各ブランドのチームが理念やノウハウを共有できておらず、それぞれの“感覚”で商品づくりをしてしまっていたのが根本的な原因でした。結果、数十億円の在庫の山だけが残るという、目も当てられない事態に。こうなると、どんどん悪循環に陥ります。気づけば、社内にはこんな人たちで溢れていたそうです。
・周囲が忙しそうにしていてもサポートせずに帰るメンバー
・誰かに指示されるまで何も行動しようとしないメンバー
・改善提案ではなく不平不満、愚痴ばかりを発信するメンバー
一人ひとりのスキルは高いけど、同じ目標に向かえていない。だから、成果が出ない。成果が出たとしても一時的なもので再現性がない。これは、会社が違っても起こりうる、組織課題のあるあるだと思います。
そこで見直したのが、経営理念の浸透でした。
当時のBOTANISTにも、明確な理念や行動指針はありました。しかし、経営理念に沿ったコミュニケーションや取り組み、つまり「理念経営」ができておらず、理念に対する解釈のズレがあり、文化の醸成ができていませんでした。そこで行った改善策の1つが「理念を軸とした採用、育成、評価等の醸成」だそうです。
スキル重視の採用から、理念マッチを重視した採用に切り替えました。
当初は多少の違和感があってもスキルがあれば採用する方針でしたが、理念マッチを最優先にした選考フローを構築し、さらには面接を担当するメンバーが共通認識を持って選考できる状態を時間をかけてつくっていきました。すると、「スキルは高いけど、理念にマッチしないから見送ります」という声が上がるようになったそう。
この方針・戦略を粘り強く実施することで、社内における方向性の違いが少しずつ緩和されていきました。
全社総会において、事業に関する話や業績についてだけでなく、経営理念(philosophy)について伝えるパートを設けました。会社の目指す姿、創業時の思い、現状課題などを代表の声から社員に伝えるようにしたのです。
また、上司と部下が1対1で面談する「1on1」では、経営理念(philosophy)軸での振り返りコーナーを設置。経営理念(philosophy)への理解やそれに沿った行動ができているかどうかを見直す時間を増やしました。さまざまな角度から、少しずつ、経営理念への理解を深めていきました。
さらに、全社総会で行うMVP表彰の基準にも、経営理念を採用したそうです。業績評価が高いだけでは不十分。VALUEに紐づいた行動ができているかどうか?を重要な基準にすることで、経営理念(philosophy)への理解を深め、同じ方向へ歩める組織づくりを徹底していきました。
これらの取り組みが1つの要因となり、数十億あった不良在庫は解消。多数のヒットブランドが次々に誕生するなど、業績も、組織力も、うなぎのぼりになりました。2020年には株式市場への上場を果たします。経営理念を軸とした組織改善が、飛躍的な成長につながっていったのです。
どんな人を採用したいですか?
そう聞かれたら、「スキルの高い即戦力の人材」と答える人は少なくないと思います。もちろんそれも大切ですが、「理念・文化にマッチする人材」という視点も同じくらい大切だということが、この記事を読むことで、再認識させられました。
会社には、その会社だけの理念や文化があります。全ての商品やサービスは、理念や文化の中から生まれていきます。いくらスキルが高くても、実績が豊富でも、理念や文化に沿ったカタチで力を発揮できなければ、想定した成果は残せない。むしろ、組織にとってマイナスになってしまうことだってあるのです。
創業者亡きあとも会社が成長し続けられたのは、父が遺した「言葉」のおかげだった
1984年に創業され、中古車、中古バイク、中古PCなど、中古品のオークションサービスを運営する「オークネット」。この会社もまた、創業のスピリットつまり理念を軸に危機を乗り越えた会社です。
株式市場への上場や海外進出など、飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びていた矢先、創業者が胃がんで亡くなったことがきっかけでした。あとを託されたのは、創業者と10歳離れた弟さん。
何から手をつければいいのか…と頭を抱えていた時に頼りにしたのが、創業者が残した一冊のノートでした。そこに記された仕事観、経営論、人生観などを徹底的に経営に落とし込むことで、健全な成長の道を歩むことに成功しました。そこに書かれていることはまさに、ポリシーや文化が詰まった「経営理念」だったのです。
『本物主義』
「本物のサービスとは何か」を常に追求し、業界の発展ならびに社会生活の向上に貢献する。
この言葉を常に軸に置き、経営を進めていきました。進むべきか、止まるべきか。このサービスをやるべきか、やらないほうがいいのか。そんな時は決まって「これは本物なのか?」という問いのもと判断し続けました。
自社の利益だけではいけない。業界の発展や、社会生活の向上につながるのか?と思考して下した判断が、一時的なマイナスになったとしても、会社としての判断は正しかったと言える。そんなブレない経営を推し進めたのです。
ネットオークションにおける「本物」とは、「信頼に足る、安心して取引ができるための情報」。信頼できる情報であれば、売る人も買う人も余計なコストを払わなくてよくなる。オークネットは、自社サービスにおける「本物」をこのように定義し、信頼できる情報を徹底した結果、創業者亡き後も成長を続けることができました。
『とにかく種をまけ』
種もまかずに実りのないことを、
なげく者のなんと多いことか
ノートには、こんな言葉も書かれていました。
中古車市場は、2000年代に入ると停滞しはじめました。そこで下した決断は、既存事業だけに依存せず、様々な事業の種をまくこと。中古車で培ったスキームを他の商品に横展開。中古バイク、ブランド品、医療機器などに進出していきました。もちろん、「本物主義」は貫いたまま。
この種まきが身を結び、中古車オークション一本足からの脱却に成功しました。停滞する中古車市場の中で存在感はキープしつつ、他の商品でもオークション市場のシェアを拡大。売上規模だけでなく、売上の柱を多角化することで、安定的な経営を実現しています。これも、ノートに記された理念を貫いた結果でした。
どんな会社でも、最初は「1人」から始まります。そこには、なぜその事業をやるのか?事業を通して何を実現したいのか?そのためにどんな行動を取るのか?といった、源泉となる思いや考えが必ずあります。
その源泉を、組織が大きくなっても、経営のフェーズが変わっても、大切にする。事業、採用、広報とあらゆる経営活動に落とし込む。それが、ブレのない価値提供につながり、目指す成長につながっていきます。
僕たちトゥモローゲートが経営理念のお手伝いをする際もそうです。
まずは、創業者の思いを掘り下げます。創業者がいない場合は、経営者の思いを掘り下げるところから始まります。大切なのは、トップが持つ源泉を、少しでも多くのメンバーに共有することです。新入社員がトップと同じ熱量・解像度で営業できる組織は、考えただけで強いですよね。それに近い状況をつくるのに欠かせないのが経営理念の言語化であり、浸透なのです。
36歳で印刷会社の社長になった僕が、減り続ける売上をなんとか立て直した話
印刷業界は、インターネットが普及しはじめた2000年ごろから市場が縮小し、一時は9兆円あった市場規模が5兆円まで落ち込んでいました。その波に飲まれるように、大口のメインクライアントから契約打ち切りの連絡が入るなど、かつてない危機に直面したのが印刷会社『glassy株式会社』。
業績の悪化に伴い、当然ながら社内の空気も悪くなり、組織崩壊の危機にさらされたと言います。
逆転の一手となったのは、「社内報の企画・制作」という新規事業でした。社内報とは、社内広報を行うために制作する冊子のこと。ネットが主流なこの時代に?と思われた方もいるかもしれませんが、これがJALや富士通、NTTデータといった大手企業から求められ、結果として業績回復の一手となりました。決まった内容の印刷を受託するだけでなく、内容から企画し、制作し、印刷まで自社で担うビジネスが当たったのです。
クライアントとなった企業は、会社のメッセージを浸透させ、会社の結束力や社内のコミュニケーションを強化しなければいけないと感じているタイミングだったそうです。「社内向けの情報提供は重要だとわかっていたけれど、社員に伝わらなければ何も始まらない。だから思い切って、わかりやすく伝えられる制作会社にお願いしてみようと思った」。発注の経緯について、担当の方はこう語っていたそうです。
会社の理念、取り組み、業績などを社員に伝えたい。
伝えることでコミュニケーションを強化し、エンゲージメントを高め、会社の結束力を強めたい。
そんなニーズに、社内報の企画制作がマッチし、発注に至り、業績改善につながったこの事例。経営理念の大切さを痛感しますね。大手企業を中心にぐんぐん新しいクライアントが増え、glassy株式会社は成長していきました。今、同社の社名を検索してみると、社名の後に「インナーブランディング・企業広報」という言葉が続きます。
受託して印刷するだけの会社だったところから、社内報をきっかけに事業領域を拡大。時代の流れに対応し、生き抜く道を見つけ、突き進む。全ては「経営理念」にまつわるニーズを見つけたところからはじまった逆転劇でした。
最後は僕たちトゥモローゲートの事例を紹介したブログ記事です。
トゥモローゲートは大阪・東京にある企業ブランディング&デザイン会社です。
2010年に創業して8年ほどは社員10人にも満たない組織でしたが、10人を超えたあたりから違和感にぶつかりました。それは「変な会社を創りたいと言っているのに、全然変なことをやれていない」という、理念と実態に違和感を覚える社員から出てきたり、一人また一人と会社に不満を抱えてやめていく社員がではじめたのです。
創業時の想いが社員一人ひとりに伝わりきっていない、そして何より代表をはじめとする役員陣も、何のために経営をして、どんな会社を創りたいのか、高い解像度で、共通言語として認識できていなかったことが原因でした。
打開策として行ったのは、役員による緊急合宿です。これから会社をどうするのか話し合う時間をしっかりと確保するための合宿。その結果として誕生したのが、経営理念を明文化したビジョンマップというものでした。
ビジョンマップとは、簡潔に言うと夢の実現に向けたロードマップです。
会社の目標や夢(長期のゴール)に対して期限付きの中間ゴールを設定。中間ゴールをクリアするための短期のゴールや具体的なアクションプランを定め、コピーとデザインに落とし込みます。そして、理想の状態から逆算し、実践し、進捗を細かく確認していきます。
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経営理念をビジョンマップで明文化したことで、日々の仕事に意義や目的が宿り、モチベーションアップにつながり、成果につながっていきました。これまで何のためにやるのか?分からなかった作業が、会社のビジョンのため、自分が目標とする姿に近づくため、と目的が明確になり、熱量やクオリティが高まったのです。
これが一つのきっかけとなり、営業利益率の向上、新規事業立ち上げの成功、社内制度や働き方の拡充、モチベーションスコアアップのなど、さまざまな面で会社は成長しました。組織崩壊の危機に面した2018年は10人前後だった従業員数は50名を突破。売上高と共に今なお増え続けています。
理念の明文化なくして今の僕たちはない、と言っても過言ではありません。
ビジョンマップというのは、僕たちなりの1つのやり方であり、カタチはなんでもいいと思います。
名刺でも、冊子でも、ポスターでもいい。
ただ共通して大切なのは、誰でも理解し、行動に繋げられるレベルの解像度まで落とし込むことです。どれだけ本質的な理念があったとしても、行動できなければ効果は限定的で終わってしまうからです。
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