炎上案件をゼロにする、クリエイティブディレクターの仕事術

2025.05.09

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突然ですが皆さん、案件、炎上してませんか?

リリース間近での仕様変更
無茶な進行スケジュール
散々すり合わせてからの「思ってたのと違う」

僕の知る限り、これを一度も経験していないディレクターはいないでしょう。かくいう僕も漏れなく経験済みです。(もちろんその分しっかり成長させてもらっています)

何をもって「炎上」とするのかはそれぞれかと思いますが、ここではクライアントからの指摘やクレームの有無だけを基準とはしません。顧客満足度が高くても、社内は地獄絵図のように燃え盛っている…なんてことも珍しくありません。そういったところも踏まえて読んでいただければ幸いです。

その上で、これらの出来事がなぜ起こるのか、どうすればいいのかを、僕のこれまでのクリエイティブディレクターとしての経験を元に話させてもらいます。単純にスキルやノウハウだけではなく、心構えや姿勢も含めてお話しできればと思います。

炎上案件はなぜ起こるのか?

僕の経験上、案件が炎上する原因は、単なる制作物のクオリティが低いからでも、どこかで失礼な態度をとってしまったからでもありません。もちろん、それら一撃で大火事になることもありますが、特に工期も長いWEB案件においてはあまり見ないパターンです。

炎上する原因は、何かひとつ局所的な出来事ではなく、少しのコミュニケーションミスや認識の違いなど、プロジェクトの計画段階から進行中に生まれる小さな「ほころびやストレス」が積み重なって起こるパターンがほとんどです。というかほぼこれです。

では、具体的にどのようなポイントが炎上の火種となるのでしょうか。

炎上する主な3つの原因

僕たちが直面する“炎上案件”には、以下のような原因があります。

1. クライアントとの期待値のズレ

プロジェクトの初期段階で、クライアントの期待値を正しくすり合わせられていないと、後々必ず炎上の引き金になります。

戦略設計段階?ヒアリング段階?いえ、受注段階での打ち合わせが不十分だと、クライアントが想像していたアウトプットと実際の提案内容にギャップが生まれてしまいます。「思ってたのと違う」と言われる原因の多くはここにあります。

クライアントが自社に求めていることは何なのか(課題の把握)、そこに対して自社が提供できる(したい)価値は何なのか。ここがズレていると、お互いに本気でプロジェクトに向き合ってるにも関わらずすれ違いが起き、即炎上です。

最終的なゴールや目的の共通認識が同じだからといって安心してはいけません。そこには必ずアウトプットがあり、アウトプットには細かいニュアンスや意図が必ず出ます。「どうやって」「いつ」そのゴールに近づけるのかまでしっかりすり合わせた上で設計していくことが重要です。

2. プロジェクトチームの連携不足

WEB案件においては、いろんな職種の人間がいます。これらが各自の視点や判断で動き、互いの意図理解や情報伝達ができないことから発生してしまう問題です。

トゥモローゲートでは、主に下記の構成でプロジェクトメンバーが構成されます。

PM(プロジェクトマネージャー)
CD(クリエイティブディレクター)
Wri(ライター)
Des(デザイナー)
Eng(エンジニア)

案件によっては、ここにDir(ディレクター)やマーケターも加わることもあります。

これらのメンバー全員が共通認識を持って進行しないと、クライアント特性やプロジェクト要件を汲み取れない企画やライティング、実現性の低いデザイン、コンセプトやデザイン意図が反映されないコーディングなど、さまざまなところですれ違いが発生します。

社内の都合で納期を遅らせることはまずないので、こうなってしまったらもう地獄です。それを防ぐためにも、クリエイティブディレクターがいるということを今一度自覚しましょう。

3. クライアント要件の調整不足

②での連携不足は、何も社内のプロジェクトメンバーだけに限った話ではありません。よくある制作会社でのプロジェクト構造として、営業担当が窓口に立ってクライアント連携を行っているケースが多いです。

そういった際に起こりうるのは、クライアントからの要件がそのまま確定事項として降りてきて、結果実現可否やスケジュールの圧迫につながり炎上するパターンです。

クライアントからの要望や意見は重要です。しかし、どんな小さな要件だろうと、「そもそも実現可能か」「できたとして、制作工程のどこかに影響は出ないか」「その上でスケジュールに支障はないか」「そもそも目的から逸れていないか」など全体視野で判断しないといけません。

窓口として立つ営業担当がそこまでのジャッジをできる場合は問題ありませんが、クリエイティブというものはそこまで簡単ではありません。それくらい制作というのは専門的なことだと、約10年この業界にいる身だからこそわかります。(最近、自分の経歴を振り返るとそれくらいになっててびっくりしたので入れてみました)

だからこそ、②の各職種との細かい連携は営業担当だけでなく、クライアントともする必要があるのです。

ちなみにトゥモローゲートでも、プロジェクト方針やクライアントとのリレーション、提案物の全責任を担うのはPM(プロジェクトマネージャー)ですが、そのPMと肩を並べて、制作進行やクリエイティブにおいてのクオリティの責任を担うのがCD(クリエイティブディレクター)です。

炎上案件をシミュレーションしてみる

ここまでの話を踏まえて、もし炎上要因が重なったらどうなるのか?実際のプロジェクトが燃えるまでの流れをシミュレーションしてみましょう。(架空のシミュレーションであり、実際の事例ではありません)

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クライアントとの戦略設計やデザイントンマナの打ち合わせでは「洗練されたデザインでいきましょう!」とお互いに認識し、意気揚々と始まった制作フェーズ。

しかしその実態は、参考サイトの中の何を参考にするのか、そもそも「洗練」とはなんなのかの言語化ができていないままプロジェクトが進行しており、いざ初稿を提出すると──

「なんか、思ってたのと違いますね」

こちらは「洗練されたシンプルかつクリーンで無駄のない、ミニマルなデザイン」をつくっていたのに、クライアントは「リッチで高級感のあるデザイン」を求めていました。

この時点でまず期待値のズレが発生。

すり合わせを行い、ようやくトンマナが完成し修正対応に入ろうとするが、プロジェクトチーム内で新たな問題が発覚。プロジェクトの状況を把握できていなかったデザイナーがすでに他の案件に着手開始。代わりのデザイナーが入るも、コンセプトやクライアント要件を何も知らないため1から引き継ぎが必要に。

チーム内の連携不足、ここで露呈。

それでもなんとか納期に間に合うようコーディングを進め、テストサイトを提出。するとクライアントから予想だにしない言葉が。

「あ、ここ更新したいんだった。」
「この情報出せないんだよね。」
「このコンテンツ、こっちに持って来れる?」

デザイン以前の要件定義をまともにできていなかったツケがここで爆発。
これ以上の不備は起こせない焦りもあり、現場判断で確定事項としてプロジェクト共有。

結果、大炎上。

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想像しただけでゾッとしますね。

さすがに、ここまで重なることは稀ですが、似たようなケースは意外と身近に潜んでいます。そして、こうした問題はどれか一つではなく、複数の要因が絡み合って起こることがほとんどです。小さなズレが放置されるほど、最後には全員が巻き込まれます。

もし「なんか見覚えあるな……」と思ったら、それはもう、あなたのプロジェクトが火種を抱えているということかもしれません。(かくいう僕はすべて経験済みです。)

炎上を防ぐための「3つの視点」

クリエイティブディレクターの主な仕事は、「クライアントとプロジェクトメンバー(クリエイティブ)とをつなぐパイプライン」になることです。ここを理解した上で、下記の3つの心構えをもつことが重要です。

①期待値を明確に設定する

要件定義や課題抽出のためのヒアリングや、上流設計・企画の提案時に「今回の成果物はこれを目指す」と明確に言語化し、クライアントを含め全プロジェクトメンバーと共通認識を持てるようにします。

デザイントンマナであれば、参考サイトを集めるだけでなく、「この参考のこの部分を踏襲する」と、誰がみても回答できるくらい明確にしておきます。必要であれば提案時に参考ではなく実際のたたきのデザインをつくるなどし、具体的なゴールをイメージできるようにします。

また戦略設計そのものであれば、「今回のプロジェクトはこの課題を解決するためのもの」と決めてしまいます。ヒアリングなど進めていくと、いろんな課題を発見します。思わずそれら全てに手をつけたり、何なら「解決できます」といったニュアンスで伝えてしまうこともありますが、これは炎上のリスクを格段に上げるので要注意です。

すべてを解決する一手など存在しません。今できることで解決すべき課題を掲示し、ゴールを決めてしまいます。もし、それ以外にも解決すべき事案が出てきて、そのためのアイデアがあるのであればそれは「追加の提案」として潜ませておきましょう。

②定期的な進捗報告や共有を行う

当たり前のことのように聞こえますが、これは前項で示したように、クライアントを含むすべてのメンバーに対してです。今どういう状況なのかはもちろん、今後どうしていくかを共有することは、メンバー1人ひとりがプロジェクトについて考える機会を物理的に増やします。そうすることでプロジェクトを自分ごとに捉えることに繋がり、結果として認識のずれが少なくなります。

また、プロジェクトの進行状況を細かくクライアントや営業担当に共有することも、安心感の醸成や小さなずれの発見にもなります。

上流での出来事や情報は下流まで、下流の進行状況は上流まで、この橋渡しとなるのがクリエイティブディレクターの仕事です。

③できないことを「できない」と伝える勇気を持つ

無茶な要望や不明確な指示、目的から逸れた要件に対して、「これはできない」「どういうことなのか」と伝える勇気を持つことも、長期的には相手の信頼を得ることに繋がります。

意図を汲み取り、翻訳した上で伝えていくことが前提ですが、すべての言われたことをそのまま素通りさせるだけなら、役割に価値は生まれません。自分で判断し、せき止める勇気も必要なのです。

ただし、何でもかんでも「できない」の一点張りだと、クライアントはもちろん、窓口として立つメンバーもうんざりしてしまいます。クライアントの要望の本質を汲み取り、それらを解消する代替案を提示するなど、相手が受け入れやすい形で進めるテクニックも必要です。

また制作サイドに対しても「こういう形ならできるか」など相談や交渉を持ちかけ、動いてもらう柔軟性が必要です。

実際にプロジェクトで行っていること

では、実際にプロジェクトが進行している中で具体的にどうすればいいのでしょうか。トゥモローゲートのクリエイティブディレクターが案件を進行する上で意識している具体的な行動を紹介します。

綿密な上流設計

課題の抽出からその解決手段、KPI設計やデザイントンマナまで、トゥモローゲートではアウトプットまで綿密にクライアントとの共通認識を持つように進行し、「思っていたのと違う」の要因となる要素を徹底的に潰していきます。

ヒアリング → コンセプト設計 → 企画設計 → デザイントンマナ → サイトマップ → ワイヤーフレーム → 情報設計 → 撮影構図 → ・・

これらすべてをクライアントとすり合わせ、最終成果物への解像度をクライアントと一緒に上げていきます。これにより、解決していく課題やプロジェクト方針、アウトプットまで、ズレのない進行を可能にします。

職種間での情報共有

特にWEB案件においては、関わる人物が多い上にプロジェクトの開始〜納品までの工期が群を抜いて長いです。そのため、キックオフにて全員集まってスタートしても、普通に進めていくとコーディングフェーズまでエンジニアは待機といった状態になってしまいます。

この状態では、フェーズごとでの確定事項の共有に必ず漏れが発生しますし、何よりメンバーの熱量に差が出ます。結果としてミスやクオリティに繋がり、社内外共に燃え尽きる可能性が一気に高まります。

これらを防ぐため、プロジェクトの最初だけでなく制作に入る前など各フェーズにて再キックオフを挟んだり、現状のクライアントとの確定事項、フェーズごとの提案状況など定期的に【全プロジェクトメンバー】に共有します。中には、週一で定例MTGを設置し、全職種からの報告や共有を行うプロジェクトもあります。

これによりメンバー一人ひとりが同じ濃度の情報を共有し、同じ熱量でプロジェクトに臨める環境をつくるよう意識しています。

クリエイターのクライアント連携

本来、クライアントとの交渉や連携などを行うのは、窓口であるプロジェクトマネージャー(他社でいう営業的ポジション)が理想的な形ではあります。しかし、前述したように、クライアント要望に対し技術的な解釈を持って的確な返答を行うのは、やはりクリエイターが適任であることも事実です。

クライアントからの疑問や要望に対して、目的や課題解決に沿った回答をすることは当然大切ですが、そこにより専門的な技術や開発スキル、クリエイティブの知見を持って具体的に回答・提案していくことが、より本質的なクライアントの課題解決につながります。

上流設計、各フェーズごとの提案などに関しては、クリエイティブディレクターはもちろん関わった技術者も同席し、即座にクライアント要件を解消する体制をトゥモローゲートではとっています。

まとめ

今回取り上げた事例は一部ですし、当然「解消法」も一つではありません。ただ言えるのは、炎上というのは何か一撃で大きな火が燃え上がるのではなく、小さな火種がどんどん積み重なって起こるケースの方が圧倒的に多いということです。

クリエイティブディレクターにとって、炎上案件を防ぐことは一つの大きな責任です。伝えるべき事を満たしながら、クライアントと現場の「調整役」としての姿勢を実践していくことで、炎上は避けられるはずです。日々の小さな工夫が、やがて大きな違いにつながっていきます。

クリエイティブディレクターの成長は、単なるスキルアップだけでなく、クライアントやプロジェクトチームからの信頼をどれだけ得られるかにもかかっています。

炎上案件をゼロにするには、スキルやノウハウだけじゃ足りません。大事なのは、プロジェクトの全体像を見て、クライアントやチームと適切な距離感を取りながら調整していくこと。その積み重ねが、信頼に繋がり、結果として炎上を防ぐ力になるんです。

クリエイティブディレクターは、クライアントとプロジェクトメンバーを繋ぐ“調整役”です。もし「この仕事に共感できる」と思ったら、トゥモローゲートで一緒に挑戦しませんか?燃えない案件を、僕たちと一緒につくりましょう。

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高馬 直広

トゥモローゲート株式会社意匠制作部マネージャー。飲食店で勤務しながら独学でプログラミングを習得し、数社のデザイン会社を経て18年にトゥモローゲートに入社した。フロントエンドエンジニアとしてWEBサイト制作を担当する一方、マネジメント業務にも携わっている。

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