世の中には一代で大きな会社をつくった社長や、数百億円を生み出す投資家が書いた成功本がたくさんあります。書いてあることから得られる学びはとても多く、私自身もこれまで何十冊、もしかしたら何百冊のそういった本を読んできて仕事やプライベートに大いに役に立ててきました。
その上で一点だけ、成功本を読んでいてどうしても感じてしまうことがあります。それは「成功した人の個人の見解に過ぎないから、どこまで自分に活かせるかは正直分からないよなあ」ということ。著者とは才能も境遇もちがう私のような凡人が書いてある通りの行動をしたからといって、著者と同等の成功ができるかはわかりません。
コピーライターとしてトゥモローゲートで働いてちょうど1年が経ちました。私の仕事は、社長をはじめとする会社のキーパーソンの取材をし、webサイトやパンフレット用の文章を創ること。これまで30人を超える社長のインタビューを担当させていただく中でだんだんこう思うようになりました。
「本から学べることよりも、実際に話を聞いて学べることのほうが多い気がする」
会社の規模も、業種も、業態もバラバラな社長から飛び出す言葉にはそれぞれの学びがあって、インタビューであるにも関わらずセミナーを受けているような気分になることがあります。この貴重な学びを自分の中だけにとどめておくのはもったいない、いろんな人に知ってもらわないと申し訳ない、そんな気持ちからこの記事が生まれました。
これまでインタビューさせていただいた社長の言葉やルーツ、エピソードから感じたことを「成功する社長になるには」というテーマでまとめていきます。すでに会社を経営されている方、これから起業を考えている方、単純に経営に興味がある方に向けて、できるだけわかりやすくまとめていきます。
INDEX
「自分のじいちゃん、ばあちゃんが安心して過ごせる場所をつくりたい」
祖父母に育てられた過去をルーツに介護会社を立ち上げ、大きなグループ会社に成長させた社長がいらっしゃいます。香川県にて、介護事業を基点としたさまざまなサービスを提供する『株式会社ケア・ステーション』の藤田浩司オーナーです。
藤田オーナーは建設会社、不動産会社、生命保険会社でそれぞれトップセールスマンに君臨。サラリーマンとして憧れられるようなキャリアと、憧れられるような待遇を受けながら、脱サラして未経験の介護業界で起業しました。全ては、世話になった祖父母と、その同世代の方々の安心をつくるためです。
ここまで原体験に忠実に行動するのは簡単ではありません。「こんな施設をつくりたい」「あんな会社を立ち上げたい」誰もが一度は思うもの。でも、実際に行動に移す人の割合はおそらく1割にも満たないでしょう。成果を残す人まで限定すれば、1割どころか1%にも満たないのではないでしょうか。
築き上げてきた立場をかなぐり捨ててでも、根っこにある「じいちゃん、ばあちゃんが安心して過ごせる場所を…」という思いにしたがって行動できる。成果が出るまで行動を続けられる。そして、成果が出てもなお進化を求められる。揺るぎない意志と行動力があるからこそ、これだけ大きなグループ会社に成長させられたのだと思います。
会社の経営をしてみたいけど、どんな会社にすればいいのか分からない。そんな人はまず、自分を突き動かす原体験を探すところから始めてもいいかもしれません。なんとなく人に言われたから。なんとなく周りがそうだったから。ぼんやりしたものではなく「こういう境遇で育ったからこの業界で働く」「こんな人を笑顔にしたいからこの仕事に挑戦する」誰に対しても胸を張ってそう言える原体験を探してみる。明確な原体験が見つかれば、これまで以上の熱量で仕事にとりくむことができ、これまで以上の成果を生み出せるかもしれません。
藤田オーナーやケア・ステーションを知りたい方はこちらをどうぞ。
「10年後に水産業界で起業したい」
19歳で描いた夢を実現するために、魚を販売するお店で働きながら、卸の経験を積むために市場でアルバイトし、卸の経験を十分積めたら次は飲食店でアルバイトをする。そんな、わずか3、4時間睡眠の生活を10年続け、水産業界での起業を実現した社長がいらっしゃいます。それが、福岡に拠点を持つSUNWOOD株式会社の井手社長。遠回りに見えなくもないそのやり方に、「あいつは無駄なことをやっている」という否定的な意見もあったとか。
私が聞いて驚いたのは、そのキャリアの歩み方はすべて、19歳の時につくった「人生のロードマップ」に記したプラン通りだったということです。
長期的な目標を達成するために短期的な目標を設定し、細かいアクションまで落とし込んでいく重要性は、近年よく語られるようになりました。最近ではメジャーリーガーの大谷選手が高校時代につくったマンダラートというフレームワークが注目を浴びていましたね。トゥモローゲートでも、個人のビジョンを達成するために「いつまでに」「なにを」「どのように」するのかを記すマイビジョンマップというシートを1人1人が作成しています。
マイビジョンマップをつくっていて感じるのは、設定した目標に忠実に行動し続けることがどれだけ難しいか…ということ。予想外の出来事が起きたり、自分のやりたいことが変わったりして、当初の予定通りに進むことの方が少ないくらいです。そう考えたときに、10年間「水産業界で起業する」というブレない夢に向かって行動し続けた井手社長のすごさを改めて痛感します。
まわりに「無駄」と思われても「必要」と信じて継続する力は本当にすごい。私のような凡人なら「無駄だ」と言われると心が折れて、夢を諦めてしまうと思います。しかし井手社長は「必要」と信じて行動し続けた。誰に何を思われようと信念を貫き続けた。だから今のSUNWOODという会社があるのだと思います。「無駄」を「必要」に変えてしまう力。これも、成功する社長が持っている力だと感じます。
創業者の想いをつないでいく使命。それを果たせるのは自分しかいない。
さまざまな出来事が重なって、当初は想定もしていなかった地元企業の後継ぎの道を選んだ方がいます。宮崎県延岡市にある池上鉄工所の専務取締役、松田さんです。2022年中に社長に就任することが決まっている松田さんは、三男であり、もともと家業を継ぐつもりはなく、東京にある畑違いのIT企業で営業として働いていました。しかし、営業として中小企業の経営者と接していくうちに、今の自分があるのは家業のおかげであることを痛感。使命感に突き動かされるように地元へ舞い戻り、現在、あらゆる改革を推し進めています。
ここまでの話だと、家業のために人生をかける「情に熱い人」というイメージが強いと思います。しかしこの方はある意味の「冷酷さ」も兼ね備えているんだと、推し進めている改革を聞いて知りました。財務状況を見て、売上や利益を圧迫している要素を洗い出し、不要と判断したものには容赦なくメスを入れる。何十年も前からその会社で働いている人がいる中での改革で批判は避けられませんが、それでも「会社を再生するため」という信念のもとに改革を推し進めています。
進化や改革に“副作用”はつきもの。自分の愛するものをいい方向に持っていくには、他の誰かに愛されているものを切り捨てないといけないシーンが出てくるのは当たり前。愛する「情熱」と切り捨てる「冷酷さ」。2つを備えている人でないと企業の成長、改革をけん引することはできないだろうなと松田さんから学びました。
私のような人間が2つを備えるためにできることは何なのか。それは「何のためにやるのか」を明確にすることかもしれません。自分が取り組んでいる仕事や経営している会社が何を達成したいのかを明確にできれば、必要なことと不要なことが明確になる。すると、必要なことには情熱を注ぎ、不要なことは冷酷に切り捨てるという判断基準ができる。何のためにやるのかを明確にするのが、情熱と冷酷を使い分ける第一歩かもしれません。
社長には、既存の事業を安定的に続けていくことに加えて、これまでやってこなかった新規事業への挑戦が求められるケースが多いです。
新規事業のアイデアは、社員から提案されることもあれば社長自ら思いつくこともあるでしょう。前者であったとしても最終決定権は社長にありますから、いずれにしてもアイデアが新規事業にふさわしいかどうかをジャッジする必要が社長にはあり、ジャッジの精度を高めるために関連情報に詳しくなっておく必要もあります。つまり、何が流行っているのか、流行っていないのかといったトレンドに敏感ではなくてはいけません。
大阪の本町に本社を置くアイ・エス・アイソフトウェアーの前田社長から聞いたエピソードが印象的でした。
「若い世代で流行っているものは何なのか。ニュースやSNSで飛び込んできた情報は積極的に取り入れるようにしています。アンテナを張っておくことで、ふとしたときに新規事業のアイデアが見つかることがあるんです」
前田社長は2022年1月の時点で48歳。自分が興味のある情報だけではなく、もともと興味のなかった情報や、20代をはじめとする異世代向けの情報にもアンテナを張ってインプットを怠らないようにされています。その結果、創業から35年以上システム開発一本で勝負してきた同社で撮影~編集~配信まで手掛けるオールインワンの動画事業を新たにスタート。ほかにも既存の枠にとらわれない新規事業をリリースするために、試行錯誤の日々を送っています。
情報における世代の壁をサクッと超えていくことで、視野や思考を広げ、現代でも受け入れられるアイデアを思いつき、事業化につなげていく。心理的な抵抗なくそのサイクルを回せるということも成功する社長のポイントの一つではないかと感じます。人は、興味のあることや、身近なことだけについつい時間を使いがちです。前田社長のような柔軟な思考をいつまでも持ち続けていたいな…とインタビューを通して痛感しました。
トゥモローゲートの社員として、最後は代表の西崎から感じていることをお伝えします。西崎はTwitterやYouTubeなどSNSを積極的に発信している社長ですが、当然ながらそれとは別で社長業も行っています。誰よりも働いているのは西崎じゃないか?社員の私がそう感じるくらい忙しいので「めんどくさくならないのかな?」と思ったこともあります。でも、会話を重ねたり一緒に仕事をするうちにこう思うようになりました。
この人は、努力をエンタメ化できる人なんだ。
SNSの毎日投稿。社内体制の整備。既存事業のブラッシュアップ。新規事業の推進。複数の業務をまるでゲームのクリアを目指す少年のような目で取り組んでいるように見えます。努力=つらいではなく努力=楽しいという方程式ができている。本人の中で憂鬱に感じていることはあるでしょうし、この記事を見て「そんなことないわ」とツッコまれるかもしれませんが、少なくとも私は「努力をエンタメ化している」ように見えます。
同じような印象を受けるのが2人います。ホリエモンこと堀江貴文さんと、元ZOZOの前澤友作さんです。あくまでメディアやSNSを通じての印象ですが彼らも一般的には「つらい」「めんどくさい」と思われるようなことに楽しみながら取り組んでいるように見えます。だからこそ誰も想像しなかったようなことで世間を騒がせたり、誰も思いつかなかったようなサービスや会社をつくることができるのではないか、という仮説を私は立てています。
努力を楽しむ。言葉にするのは簡単ですが実践するのは難しいです。最初から実践できる人はほとんどいないと思います。それでも目の前の小さな努力を「楽しもう」と言い聞かせながら取り組んでみる。小さな努力を楽しむことを地道に続けていれば、いつか大きな努力も楽しめるようになるのではないかと思います。