MVVとは、企業や組織の存在意義や目指すべき未来などを意味する概念の1つです。「ミッション(Mission)」「ビジョン(Vision)」「バリュー(Values)」を略したもの。経営理念や企業理念、パーパス、フィロソフィーなどとも呼ばれることがありますがその意味や役割はほぼ同じ。今回はこのMVVの概要や目的、定めるメリット、事例などを解説することで、企業や組織の課題を打ち破る1つのきっかけをつくれたらと思って書いていきます。
弊社トゥモローゲートはこのMVVを定義する「経営理念策定」や、経営理念を全社に浸透させるお手伝いをする「経営理念浸透」などのサービスを提供している会社です。これまで上場企業からベンチャー企業まで、都心にある企業から地方企業まで、業種業態問わず、さまざまな会社の経営理念をお手伝いしてきました。その観点からMVVとは何なのか?を多角的に分析していきたいと思います。
INDEX
ミッション(Mission)とは、企業や組織の存在意義や社会的使命を示す概念です。なぜその企業は生まれたのか。なぜその事業なのか。社会やお客様にどのような価値を提供するのか。それらを言語化することで、社員にとってその会社で働く意義や使命感を醸成することができます。
次にビジョン(Vision)とは企業や組織が目指す未来を示すもの。ミッション(Mission)を提供し続けた結果、どんな状態を実現したいのかという企業の最終目標。自社がなりたい姿はどんなものか。どんな社会を実現したいのか。見るだけでワクワクするビジョンであれば組織全体のモチベーションは高まります。実現するために何をするのかまで明確にすることで組織の一体感を生み出すことができます。
最後にバリュー(Values)とは、ビジョン実現に向けてミッションを提供していく中で、社員として必ず持っておくべき共通の価値観やあるべき姿、そこから考えられる具体的な行動基準などを定義したものです。日々何を意識し、どんな行動をとるべきなのか。バリューが明確でありかつ実践的なものであれば組織の一体感醸成が期待できます。
一例として私たちのMVVをご紹介します。私たちはMVVをはじめとする経営理念をA3用紙にまとめる「ビジョンマップ」というものを作成しています。
ビジョンマップはただ経営理念を定めただけのものではありません。MVVをはじめとする経営理念の構成要素を誰でもわかりやすい言葉で定義し、どうなれば達成なのか、そのために何をやるべきなのかまで細かく明文化しています。それらの重要な情報を分厚い本ではなくA3用紙1枚にまとめるのがビジョンマップの特徴。いつでも誰でも見返すことができるため認知と理解を深めることが可能。その先の浸透を見据えた私たち独自のフレームワークです。
▼ミッション『世の中にきっかけを。』
トゥモローゲートに入社して人生が変わった。仕事を依頼して会社がさらに成長した。SNSの発信を見て「仕事は楽しいものだ」と気が付けた。関わってくれた人や会社に、そう思ってもらえるきっかけを与えたいという想いから生まれたミッションです。
▼ビジョン『世界一変わった会社で、世界一変わった社員と、世界一変わった仕事を創る。』
このビジョンは創業当時から変わっていません。事業内容すら明確ではなかった当時からあった、ありきたりではない「変わった会社をつくりたい」という想いを色濃く反映しています。
▼バリュー
バリューは12項目を設定しています。ただ言葉を並べているだけでなく、評価制度などと紐付けることで、行動基準に沿った言動ができているかどうかを定量的に測れるようにしています。また部署やチーム単位で定期的にバリューについて考える時間をとるなど、メンバーが日頃から行動基準に触れる機会を持つようにしています。
企業や組織がMVVを策定し浸透させることで期待できるメリットを、私たち自身やお客様に提供した実績をもとに書いていきます。大前提、MVVを策定しただけで得られるメリットは限定的です。策定したMVVを浸透させ、あらゆる企業活動に落とし込んでいくことが必須となります。
社員のモチベーションが上がらない理由としてありがちなのが、日々の仕事が何につながっているか、何のためにやっているのか?が明確ではないというものです。MVVにはこの「目的」を明確にする役割もあります。会社の使命や目指す未来が明確になれば、社員一人ひとりが日々やるべきこと、やることの目的が明確になるからです。
私たちには「世界一変わった会社で、世界一変わった社員と、世界一変わった仕事を創る。」というビジョンがあり、事業、採用、広報など全ての事業活動がビジョンに沿った戦略のもと実施され判断がなされています。社員一人ひとりが会社の戦略や判断に対し、納得感をもった状態で日々の仕事に取り組むことができているんです。
MVVと営業力は関係ないように見えますが、決してそうではありません。どれだけ商品やサービスが優れていても、その魅力に詳しくない人や自信が持てていない人が営業をすると、お客様に魅力は伝わりきりません。なぜお客様にその商品が必要なのか?同業他社とどう違うのか?理解し、自信を持って提案することが“売れる”の第一歩です。
その一歩を踏み出すために欠かせないのがMVV。MVVが明確であり浸透していれば、なぜこの商品を提案するのか?提案した先にどんな未来が実現できるのか?を社員一人ひとりが理解できているため、お客様に商材のメリットを強く濃く伝えることができます。
私たちトゥモローゲートのように無形商材を扱う会社は特にそうでしょう。言葉や姿勢を通して提供できる価値をお伝えすることでご利用いただく可能性は高まります。そのために必要なことの1つが明確なMVVの存在です。
上記のようなメリットが複合的に絡み合った結果、中長期的に売上・利益の向上という大きな成果につながります。私たちはMVVなどをビジョンマップとして明文化し、浸透させて企業活動に取り入れました。その結果として営業利益率の向上、モチベーションを測定するサーベイスコアの向上、自社の考えにマッチした社員採用の強化などさまざまな成果が得られました。そしてそれが中長期的な売上・利益の向上につながっていきました。
次はMVVを定める方法について解説します。様々なパターンがありますが、私たちトゥモローゲートを例にあげると、役員陣で一泊二日の合宿を実施し、ミッション(存在意義)、ビジョン(目指す方向性)、バリュー(行動基準)を定義し、それに紐づく定量目標や具体的なアクションプランに落とし込むという流れで定めていきました。
そうして完成したのが先ほどもお見せしたビジョンマップです。
※定量目標や具体的なアプションプランは外部非公開のため掲載いたしません
MVVをどんな流れ、どんなメンバーで定めるべきかは企業によって違います。これまでさまざまな企業様にMVVの策定や浸透のサービスを提供してきましたが、社長1人で大枠を定めたこともあれば、幹部メンバーや若手メンバーも交えて定めたこともあります。私たちは先ほどもお伝えしたとおり役員3人による合宿で大枠を固め、後日全社員に説明する流れをとりました。
全メンバーの意見を聞きながらつくっていくことも可能ですが、人数が増えるほどMVVを定める難易度は上がります。膨大な価値観と意見が出てきてまとめるのが大変だからです。MVVとは全員の意見を反映し理想を叶えるものではありません。企業全体の存在意義や目指す未来を示すものです。そのためまずは中心となるメンバーが大きな方向性を示し、メンバーを交えどうやって実現するのかを考えるやり方が一番おすすめです。
まずはメンバー同士の原体験を共有しあうことです。人生観、仕事観、それらがどんな原体験によって作られたのかをさらけ出しあいます。そうすることで「この人はなぜこんな考えになるんだろう?」を理解できるようになります。また、同じ言葉でも人によって微妙に意味合いが違うことによるコミュニケーションのすれ違いも、それぞれのニュアンスを汲み取れるようになることで防ぐことができるようになります。
未来の話をする前に過去の話を。生まれてから今日まで、どんな人生を送ってきたかを時系列でさらけ出すところがMVV策定のスタートです。特に創業者や経営者、それに近いメンバーの原体験や想いは、MVVを定める上でとても重要な要素となります。
・どんな家庭環境で育ってきたのか?
・どんな友達に囲まれていたのか?
・勉強やスポーツは何に打ち込んでいたのか?
・どんな趣味や恋愛に時間を注いできたのか?
・人には話してこなかった失敗談は?
・人生で最も嬉しかったことや悲しかったことは?
聞いている側は気になることがあれば質問をどんどん挟みましょう。その会社にはどんな考えや原体験を持った人が集まっているのか?を理解しましょう。話してこなかった失敗談や恋愛の話は特におすすめです。知っていたようで知らなかったその人の一面を知ることができ、距離がグッと縮まり、現在そして未来の話をより建設的に行うことができるようになります。
自分たちがなんのために会社をつくって(ミッション)、どこを目指すのか(ビジョン)を定めていきます。私たちは創業当時から今と同じミッション、ビジョンを定めていましたが、そこに到達するために必要な条件や中間ゴールは設定できていませんでした。なんとなく変わった会社をつくろう!という程度の解像度だったんです。
解像度が低いとミッションやビジョンに沿った戦略を打つことができません。働くメンバーも「この会社の“変わっている”ってどういうことだろう?」と迷ってしまいます。これを避けるために解像度を上げるのがMVV策定の役割の1つ。どうなればミッションを提供していることになるのか。どうなればビジョン実現なのか。言語化します。
ミッションを提供し続けてビジョンを実現するために、行動基準と、会社としてOK or NGを判断する基準を定めます。行動基準とは、メンバーが日頃から意識し体現するべき価値観のこと。判断基準とは、会社としてやるかやらないかを判断するための軸のこと。
行動基準はそれぞれの原体験をもとに「大切にしなければいけない価値観とは?」を深掘りし、絶対に守らなければいけないことを抽出してまとめることで定めていきます。判断基準は企業によってさまざまですが、私たちは誰でもわかりやすく判断できる方程式にしようという話になり、どんな条件を満たせば「オモシロイと言えるのか?」を出し合って定めていきました。
「ささる」と「あがる」2つをそれぞれ3項目以上満たしたものを「オモシロイ」と認定する。お客様に提案する企画はもちろん、社内制度や採用基準、評価基準などいろんなシーンでこの基準を活用しています。定めるだけでなく実際の現場に落とし込むことで、日頃から大切にすべき価値観や判断基準をを組織に浸透させることができます。
定めたMVVはどうなったら達成と言えるのかを定義していきましょう
世界一変わった会社で〜というビジョンは、社員数十名の会社からするとまだまだ距離のある話です。これだけではメンバーはビジョンを身近に感じることは難しい。そこで重要になるのが中期ビジョンの存在です。将来、ビジョンを実現するために中間地点として何を実現すべきなのかを定義してい君です。
私たちは「世界一変わった会社になる」ためにまずは「「大阪で一番オモシロイ」と言われる会社になる」という中期ビジョンを策定しました。と聞いても、こう思う人がいると思います。
「大阪で一番オモシロイってどんな状態?」
何をいつまでに達成すれば大阪で一番オモシロイと言えるのか?それぞれがイメージする達成要件を、「どれだけ無謀だと思うものでも否定しない」というルールのもとで出し合って決めていきました。その結果、
中期ビジョン「大阪で一番オモシロイ会社」を達成するためにクリアすべき8つの項目と、それらをクリアするための具体的なゴールが決定。世界一変わった〜という長期的なビジョンだけでなく、それに対して今できることややるべきことを明確にすることで、メンバーが目的を持って仕事に取り組むことができるようになりました。
誰もが知るあの企業はどのようなMVVを掲げているのでしょうか。MVVをどのように企業活動へ落とし込んでいるのでしょうか。トヨタ自動車、マネーフォワード、サイバーエージェントのMVV事例を紹介・分析していきます。
自動車を製造するだけでなく、自動車にまつわる活動を通して人の生活の質を引き上げるという決意が込められているように感じます。「幸せ」というワードはよく使用される言葉ですが、それに続く「量産する。」というワードをみた瞬間に“トヨタらしさ”を感じ、グッときました。ズバ抜けた歴史と伝統のある会社ですが、まるでベンチャー企業のごとく新しい技術革新や事業展開をされている。そんなトヨタの凄みを感じるミッションです。
移動手段としてのモビリティだけでなく、移動手段の革新がもたらす社会全体へのインパクトを生み出すというメッセージだと感じます。ビジョンに「自動車」というワードを入れていないところが印象的ですね。メイン事業の自動車領域にとどまらず、多様な移動手段を手掛けることで社会に貢献し続ける。そんな企業の方針が込められているのではないかと思いました。
トヨタウェイとは、トヨタ独自の経営哲学です。一昔前の自動車産業はハード面の印象が強かったですが、今では自動運転システムをはじめとするソフト面の存在感が増す一方。そんな時代でも自動車産業の、日本のリーディングカンパニーであり続けるために、ソフト面とハード面の両面からトヨタ独自の価値を生み出していくという決意がVALUEに設定されています。
金融系のwebサービスを提供する上場企業マネーフォワード。お金の管理や運用を通して関わる人の人生を前に進める。その事業内容がダイレクトに伝わり、かつわかりやすさと力強さを備えた言葉です。単に金融サービスを提供して儲けるだけでなく、その先に提供する本質的な価値や実現する未来まで感じられるミッションです。
お金のプラットフォームといえば銀行などの金融機関がイメージされますが、デジタル化など様々な変化に伴いそのイメージは変わりつつあります。「すべての人の」「お金のプラットフォームになる」と宣言するマネーフォワード。今後の事業展開、そしてその裏にある野心を社内外問わず見た人が瞬時に理解できるビジョンになっています。
どんな状況でも常にユーザー目線で思考し行動し挑戦する。本質的な課題を発見し、ユーザーの期待や想像を超え続ける。そんな意気込みを感じる『User Focus』。テクノロジーの力だけでなく、デザインの力も最大限活かすことで新しい価値提供をする『Tech & Design』。最後は公平性を意味する『Fairness』。自分たちだけでも、お客様だけでもない。関わるすべての人にフェアに向き合うという決意が込められています。
最後はMVVというカタチではありませんが、参考になる経営理念をご紹介します。サイバーエージェントのVISIONです。一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
Vision『21世紀を代表する会社を創る。』
シンプルだけど力強い。一目見ただけで気合いが湧いてくる言葉ですね。サーバーエージェントは1998年の創業からこの言葉を掲げているそう。その当時に見たら絵空事に見えたかもしれません。しかし今では何も違和感もありませんね。創業当初から1つのゴールに向けて走ってきた。その背景を想像した後に見てみると、またさらに気合いが湧いてきますよね。
それぞれ企業の特色があり、見た人に勇気を与える力がある。もし自分が上記の会社で働いているとしてら、日々の仕事の意義を感じることができるし、辛く苦しいことがあっても立ち向かえるのではないかと感じました。
最後に、MVVを定めることのデメリットについて解説します。明確に何かが悪化すると言い切ることはできませんが、策定するにあたって苦労する点や大変なことはあります。弊社の例をもとにいくつかあげてみました。
①MVVを明確にしビジョンマップに落とし込んだことで退職者が生まれた
②MVVを定めたビジョンマップ通りにことを進めなければ組織の一体感は弱まる
③現状維持ではなく新しいことに常に挑戦し続けなければならない
これまで明確にしてこなかったMVVが明確になり、それに沿った企業活動を継続することにより、共感してくれる社員が増え、新しいメンバーが増える一方、既存社員の一部から方向性の違いが聞かれるようになり、退職に至ったケースがありました。
これは弊社だけでなくどの企業でも多かれ少なかれ起こる可能性があります。しかしこれが一概に悪いこととは思いません。むしろ会社が変化・進化し続けるために避けては通れない道だと痛感しています。
また、せっかく定めたMVVやそれに沿ったことを実行しないと、社員からすれば「言っていることとやっていることが違う」という不信感が芽生え、組織の一体感は薄まってしまいます。MVVを明確にし定めるのは、その後のアクション次第で武器にも諸刃の剣にもなるということです。
MVVは策定することがゴールではありません。全社に浸透させることがとても重要です。浸透させる方法についてはこちらのブログで詳しく解説しています。興味のある方はぜひご覧ください。
自社のMVVを見直してみようかな、新しくつくってみようかな、と感じた方がいればぜひ気軽にご相談ください。今よりもっとオモシロイ会社にするための戦略を、全力で提案させていただきます。