組織には「10人の壁」「30人の壁」「50人の壁」「100人の壁」という言葉があります。
社員数の増加に伴い課題が浮き彫りになる、経営のよくあるフェーズ。私たちトゥモローゲートの社員数は2024年時点で50名に迫っており、これまで「10人の壁」と「30人の壁」をなんとか乗り越えましたが、今まさに「50人の壁」にぶつかっています。
久しぶりにブログでは、入社時は社員数が12名だったところから、50名規模に増加する過程で体験した組織の変遷と、人事の立場から見えた課題、その対策等について書いていきます。組織課題を感じている経営者や人事担当者にとっては特に、学びのある内容を目指していきますので、ぜひご一読ください。
INDEX
私が入社する前のことになりますが、2016年、社員数が10人に差し掛かった頃、トゥモローゲートは「10人の壁」に直面していました。壁とは何か具体的に言うと、経営理念がしっかりと浸透していなかったのです。
2016年は組織体制を変更した時期でした。それまでは代表の西崎が自ら契約を取ってくる営業から、メンバーが行う顧客向けのプレゼンへの同席、企画書のチェックなど、現場の業務全てに携わっていました。しかし、代表の弟である西崎隼平をはじめ、新たなメンバーの加入に伴い、代表は徐々に社長業に専念していきました。
営業コンサルを担う「戦略企画部」と、クリエイティブを担う「意匠制作部」という部署が新設され、それぞれに責任者が就任。すると、代表がメンバーとコミュニケーションをとる機会が減り、結果として「会社の考えや想いが伝わりにくくなっている」と感じる場面が増えていきました。
社員からは自分の意見が通らないことへの不満や、認識の違いなどで似た声があがるようになり、創業以来一人も出ていなかった退職者がチラホラで始める自体。これが「10人の壁」です。
このままではまずい。この先、さらにメンバーを増やしていく中で、このまま何も手を打たなければ、いずれ組織が崩壊するかもしれない。そんな危機感から、西崎と役員たちは会社の未来を見据えた合宿を実施します。そこで生まれたのが「ビジョンマップ」でした。
このビジョンマップは、一言で言えば「夢の実現に向けたロードマップ」です。将来の目標や夢(長期ゴール)に向かって期限付きの中間ゴールを設定し、それを達成するための短期ゴールと具体的なアクションプランを盛り込んだA3サイズのフォーマット。
それまでもビジョン、ミッション、バリューは存在していましたが、そのビジョンを実現するために何をすべきか、具体的な方針やアクションが明確ではありませんでした。そのため、社員それぞれが理念についてバラバラな認識を持っており、それが「10人の壁」につながっていたのです。
ビジョンマップの完成をきっかけに、自分たちがこれから何を目指し、そのために何が必要なのか、社員一人ひとりがどのようなスタンスで臨むべきなのかが明確に。やるべきこと・やらないこと、そして会社の判断基準がはっきりと示されることで、漠然としていた経営戦略が具体的な形となって見えた瞬間だったのです。
【ブログ】ビジョンとは?組織が強くなるビジョンマップの作り方
ビジョンマップは作って終わりでは意味がありません。ただ社員に配って「読んでおいて」と言っても浸透することはありません。重要なのは、経営陣が言葉にしてしっかりと社員に伝えること。経営陣自らその言葉通りの行動をすること。そして、会社が着実に前進し、日々変化していることを実感できる体験を積み重ねることです。
浸透させるためにまず取り組んだのは、オフサイトミーティングと呼んでいる1泊2日の合宿でした。経営陣で行った合宿の効果がてきめんだったことから、社員全体を巻き込み、会社全体で実施することになったのです。
この合宿では、日常の業務を完全にストップし、会社や自分の理念・ビジョンだけに向き合うという研修プログラムで行われます。今では毎年開催される恒例イベントとなりました。
日々の業務が忙しいと、目の前の仕事にに追われて未来のことは後回しになってしまいます。そこで年に一度、業務を完全に止めて時間を確保することで、会社や自分の未来と向き合う貴重な時間をつくろうということです。
オフサイトミーティングだけでなく、日常から経営理念について考える機会をつくったり、企画提案の判断基準や選考基準など、経営理念で定めている内容を実務に落とし込むことで、少しずつ理念を浸透させていきました。これらを通して、「10人の壁」を乗り越えることができました。
会社のビジョンや経営理念、判断基準が明確になったことで、全員が同じ方向を向いて進めるようになりました。そして、ビジョンマップの完成をきっかけに、以下のようないい変化も起きました。
上記に伴い、売上も、採用人数も、企業の認知度の徐々に拡大していきました。経営が次のフェーズに進んだ実感が明確にありました。しかし、組織課題が全て解決…というわけではありません。
メンバーが30人にさしかかり始めた頃、また新たな壁にぶつかることになります。
上記であげた移転をする前のオフィスは、一つの空間に全メンバーが集まれるつくりでした。自然と会話や雑談が生まれ、忙しい中でも笑いが起こるシーンもありました。しかし、現在の本社でもオフィスに移転してからは、メンバー同士の状況を把握することが難しくなり、特に他部署との距離を感じるようになっていったんです。
オフィス拡大によるコミュニケーションの希薄化を改善するため、まずは組織体制を変更しました。これまでは2人の役員が両部署のトップに立ち、部署のメンバー全員をマネジメントする体制でしたが、そのひとつ下の階層にリーダー職を配置。経営層の判断やその背景を会社視点で伝えられるメンバーを選定しました。
一般的に、1人がマネジメントできる人数は5〜7人までと言われています。当時すでにその人数を超えていたため、早急に組織体制の変更が求められました。その結果、メンバー間、とくに階層間のコミュニケーションが改善。「30人の壁」を乗り越えるきっかけとなりました。
評価制度も見直しました。それまでの評価制度では、売上を上げた人が特に評価される仕組みになっていましたが、これは、掲げているビジョンと完全一致はしていませんでした。極端に言えば、ビジョンに沿った行動をしても評価に繋がりにくい構造でした。そのため社員のモチベーション低下や、ビジョンとのギャップが生じていたんです。
新しい評価制度では、売上などの「実績」や「スキル」に加えて、「マインド」と「ビジョンへの貢献度」の4軸で判断する仕組みに変更。ビジョンに沿った、ビジョンにつながる評価制度することで、社員のモチベーションや認識のずれを改善することができました。
これは、会社のビジョンと社員のビジョンを紐付け、社員が自分の目標と会社のビジョンに向けて主体的に行動できるようになる「マイビジョンマップ」という独自のフォーマットです。
マイビジョンマップは、社員の夢と会社の夢を結びつける期限付きのロードマップ。人生における最終目標から逆算し、数年先の目標や今年の目標、それを実現するための具体的なアクションプランまでを記入します。
これを年に2回、上司との面談で進捗を確認し、定期的な管理を行うことで、会社は社員の夢の実現を全面的にサポート。また、社員が目標に向けて行動し成長することが、会社の評価にも反映されるように、マイビジョンマップが評価制度と連動する仕組みも設計されています。
社員一人ひとりが目標を持ち、意識的に行動できる仕組みづくりが整い、新たな働き方や福利厚生の導入も進んだことで、会社が大きく変化した重要なタイミングだったと思います。こうした取り組みの数々が功を奏し、「30人の壁」を乗り越えることができました。
そして昨年、「50人の壁」にぶつかりました。
社員数が増えるにつれチームも増え、組織構造上、社長・経営層とメンバーとの距離が自然と生じるようになってきました。また部門やチーム間における情報の断絶が発生しやすくなり、全体の一体感も以前と比べると失われつつあります。実は今もその解決に向けて模索している最中です。
この規模になると全メンバーが同じ情報を共有するのは難しくなります。トゥモローゲートには週に一度の全社会議がありますが、時間内に共有できる情報には限界があります。全員が集まるための時間を設けるのも一苦労です。
そこで、部署単位や対面での意思疎通を図る2つの取り組みを推進しています。
1つは、月次や週次での部署全体会議です。会社全体や部署内での動き、今後の方針やビジョンの再確認、またプロジェクトでの取り組みなどを共有する機会を増やしています。
もう1つは1on1面談です。これまでも実施してきた1on1ミーティングですが、部署やチーム単位で定例開催を制度化。大人数での会議や、通常業務中にはなかなか話せない悩みから、業務ボリュームの調整など、個人にフォーカスして話す機会も新たに創出していっています。
仕事に関する話だけでなく、何気ない会話“雑談”の機会も、チームで働く上ではとても大事です。しかし社員数の増加に伴い、1人ひとりが雑談をする機会がどうしても生まれにくくなっていました。
こういった課題を仕組みで解決しようと考えて生まれたのが、毎日無料で食べられる社員食堂です。自然と仕事の手が止まる食事中にコミュニケーションをとることで、仕事中には生まれにくい、関係構築には欠かせない“雑談”の機会を生むことができました。
最近では夜ご飯を決まったメンバーで共にする「meet UP」という企画も実行中。仕事におけるコミュニケーションだけでなく、お互いのことを知り合える時間を増やすことで、50人の壁に立ち向かっている最中です。
10人、30人、50人の壁と、その壁を乗り越えるために実施していることを紹介してきました。どの壁にも共通するのは「経営理念の浸透が重要だ」ということです。
メンバーの数が増えるにつれ、何のために存在している会社なのか?どんなビジョンを実現するのか?の認識は薄くなっていきます。そうすると階層やメンバーによって仕事に取り組む姿勢や品質にばらつきが生じます。そのばらつきは巡り巡って、成長スピードが落ちるという結果につながっていきます。
これまで取り組んできた施策は全て、経営理念を軸に考えられたものでした。50人の壁にはまだぶつかっている最中ですが、その原点さえ見失わなければいつか乗り越えられるはずと信じて、日々会社づくりを進めています。
これまで私にとって「強い組織」とは、「全員が同じ熱量で仕事に取り組める組織」でした。でも、今は少し違う視点も持つようになりました。自分のペースで少しリラックスしながら仕事をしたい人だっています。そういった人も個性を失わず自分らしく活躍できる柔軟な組織をつくっていきたいと思っています。
トゥモローゲートが目指すのは、個性豊かなメンバーが集まり世界一オモシロイ会社をつくることです。1つのビジョンや理念に共感していることは大前提ですが、その上で個性を大切にするという意識を、今まで以上に持っていかなければいけないなと感じているところです。
組織の問題は、「これをすれば解決できる!」という単純なものではなく、すぐに結果が出るものでもありません。その難しさやもどかしさを常に感じていますが、10人や30人の壁を乗り越えた時に会社が強くなったように、今回もこの壁を乗り越えることができれば、今まで見えていなかったオモシロイ景色が見えると確信しています。
企業ごとに社風や文化が異なり、直面する課題もさまざまですが、みなさんの組織にも共通している点も多分にあるかと思います。トゥモローゲートがこれまでに直面した課題や取り組みが、少しでも参考になれば幸いです。今後も計画している施策がいくつかあるため、実行後にはその効果がどうだったかを追加でお伝えさせていただきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。