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高校野球チームの多くは「甲子園に出場する」という不動のビジョンを掲げています。
生徒は「甲子園に出場するために」進学する学校を選びます。「甲子園に出場するために」身体的にも精神的にも過酷な日々に向き合います。「甲子園に出場するために」相手チームの研究にも時間を惜しみません。ブレないビジョンをめがけてひたすら努力する。挑戦する。それが高校野球です。
僕が所属していた兵庫県の明石商業高校という学校も、そのような環境でした。僕がいた当時は甲子園には出られませんでしたが、全メンバー共通のビジョンを実現するために血のにじむ努力をした日々は、社会人になった今でも人生の大きな糧となっています。
そんな野球人生を経て、企業の経営理念構築をはじめとするブランディングに携わるようになった今で、ふとこんなことを考えます。「甲子園出場を目指す高校野球のチームは、会社組織の理想なのではないか」と。
・メンバー全員が1つのビジョンを強烈に意識し、そこに向かって猛烈に努力している状態
・ビジョン実現のためなら、多少の無理をしてでも挑戦を続けられる人ばかりが集まっている状態
こんな会社があると仮定すると、とてつもないスピードで、とてつもない成果を残すのではないかと想像してしまいます。ビジネスモデルが優れていれば、あっという間に頂点を極めるでしょう。たとえ壁にぶつかっても熱量と成果で軽々超えていくでしょう。
チーム一丸で追いかけられる明確なビジョンがあれば、企業は高校野球のチームばりに強い一体感を手にすることができるはず。そんな仮説を軸に、高校野球と経営理念どちらの経験もある僕の視点から、企業が参考にできるポイントをピックアップし、解説していきます。
経営理念が大切だと言われるけど、必要性にまだピンときていない。そんな経営者の方々にとって、学びのある記事を目指していきますので最後までお付き合いください。
甲子園を目指す高校球児の多くは、中学時代やそれ以前から「甲子園に出場したい」という夢を持っています。各高校はこの夢に対し、「なぜこの高校に入れば甲子園に出られるのか(夢が叶うのか)」を伝えることで、進学先に選んでもらい、チームを強化していきます。
僕自身、高校選びには監督をはじめとするチームのビジョンやそこに対する熱量を重視していました。当時は甲子園出場経験がなかったにもかかわらず、監督の甲子園出場への情熱に心を打たれ、中学生ながら「こういう人についていきたいな」と思い、進学を決めました。
この「ビジョンの伝達」は、会社の採用活動に置き換えると重要性が身に染みます。入社してくれたメンバーだけでなく、入社前の段階からビジョンについて熱く伝えていきましょう。説明会や選考など、「何を目指している会社なのか?」「現在何をしているのか?」「どんな実績があるのか?」を熱く伝えるんです。
そうして伝えたビジョンや、ビジョンに沿った取り組み、ビジョンへ立ち向かう社員に共感してくれて入社した社員は、同じ方向を見て、同じ熱量でビジョンを追いかけてくれるはず。これほど心強いことはありませんよね。
入社してからビジョンを伝えても手遅れ。とまでは言いませんが、早いに越したことはないです。もし自分が有望な中学生で、興味のある高校の話を聞きに行ったのに、「甲子園に出場する」というビジョンを一言も聞けなかったらどうでしょう。答えは明白ですよね。
できるだけ早く熱くビジョンを伝えること。強い組織づくりに欠かせない一手です。
高校時代には強豪校と数多く対戦し、大学時代には強豪校出身の選手とチームメートになりました。彼らに強豪校の話を聞いていると、必ずと言っていいほどこういった話が出てきます。
「監督やキャプテンからの指示だけでなく、選手同士で意見をぶつけあったり、ビジョンを語り合う文化があった」
「甲子園出場」というビジョンを叶えるために、何が必要か、なぜそれをやらなければいけないのか。監督やキャプテンだけでなく、メンバー1人ひとりが強烈に意識している。だからこそグラウンド上でぶつかり合うこともあれば、取っ組み合いのケンカになることもあったといいます。
どの会社でも、創業した社長やその脇を固める幹部メンバーは、会社のビジョンについて理解し語れるケースが多いです。ただし一定の規模を超えてくるとビジョンは浸透しきれなくなります。なぜならコアメンバーが社員と直接コミュニケーションをとれない範囲が出てくるからです。
そこを突破するには、若いメンバーや入社したばかりメンバーがビジョンを理解し語れる状態をつくることが必要です。監督でもキャプテンでもない、現場のメンバーがグラウンド上で熱くぶつかり合う高校野球チームのように、社員一人ひとりがビジョンについてぶつかり合う状態を。
僕たちトゥモローゲートも、社員が10人前後の時代は今と比べると経営理念を明確にしておらず、浸透するための取り組みも限定的でした。理念自体はありましたが、それらを代表の西崎をはじめとする幹部メンバーが、現場メンバー1人ひとりに直接伝えることができる状態でした。
しかし、10人を超えたあたりから経営理念の理解度や解釈にズレが生まれ、組織課題にぶつかりました。そこで理念をより細かく言語化し、ビジョンの達成要件などを定め、それに基づいた行動を社内に浸透させました。まだまだ課題はありますが、強い組織づくりへ一歩ずつ前進しています。
全員が全く同じ熱量で…というのは難しいかもしれませんが、できる限り全員が同じ理解と熱意を持って取り組める組織をつくっていきましょう。そのための時間は惜しんではいけません。
【ブログ】ブランディングとは?中小企業がすぐやるべきブランドづくりのやり方
2024年1月3日。
僕は高校野球部のOB会に出席しました。三が日にもかかわらず200人以上のOBが集まった大規模な会で、長年監督を務めてきた僕の恩師がステージ上からこう宣言されました。
「これから先、公立高校が甲子園で優勝することはそうそうないと思う。もしかしたら二度とないかもしれない。あるとしたらうちやと俺は信じてる。必ず日本一になる。そのためにやり切る。みんなも応援してほしい。」
OBである僕は、退職済みの社員と似たような立場です。それでも、心が熱くなりました。少しうるっともきました。全力で応援しようと改めて思いました。同じように感じたOBはたくさんいたはずです。この熱量が応援につながり、支援につながり、甲子園出場そして優勝というビジョンに母校を押し上げるだろうなとも感じました。
企業においても同じことが言えると思いました。コミュニケーションをとる機会があれば必ず自社のビジョンを全力で伝える。伝えることで巡り巡って応援してくれる人が増え、仲間が増え、ビジョンへ近づけてくれる。こういった現象は企業でも十分起こり得ます。
友達との飲み会でもいい。ビジネスパーソン同士の交流会でもいい。SNSやオウンドメディアで不特定多数に発信してもいい。イマは直接的な関わりがなくても伝え続けることが大事です。粘り強く伝え続ければ、いつか協力者が現れ、ビジョン実現に貢献してくれるはずです。
懐かしいなあ、くらいの気持ちで参加したOB会でしたが、思わぬ刺激と学びを得ました。直接関係ない人にもビジョンを語り続ける重要性が、身にしみた1日でした。
①入社前の選考段階で、採用検討者に自社のビジョンについて熱く伝えておくこと
②現場のメンバー同士でビジョンを語り合える状態をつくること
③組織外の人に対しても、ことあるごとにビジョンを語る癖をつけること
高校野球の事例や実体験を交えながら、ビジョンにおいて大切なポイントを3つ解説しました。解説して感じたことをまとめると、「できるだけ多くのメンバーが心の底から信じられるくらい、解像度も納得度も高いビジョンを定めることが大事」だということです。
企業が、「甲子園出場」ほど万人共通認識のビジョンを掲げるのは難しいかもしれません。でも、限りなくそれに近い解像度で掲げることはできます。
僕たちトゥモローゲートは「世界一変わった会社で、世界一変わった社員と、世界一変わった仕事を創る。」というビジョンを掲げ、中間目標として「「大阪で一番オモシロイ会社」と言われる会社になる。」という中期ビジョンを掲げています。ただ掲げるだけでなく、どうなれば達成なのか?の要件まで定義しています。
目指す未来や、そのためにやるべきことの解像度を極限まで高めているため、日々の業務をどんな姿勢で取り組み、何をやり、いつまでにどんな成果を残せばいいのかも理解しています。だからこそ業務一つひとつに熱が入るし、一体感が生まれていると思っています。
ビジョンの達成条件が定量的だとなおいいです。目指すゴールが明確になるからです。その点「甲子園出場」というビジョンは非の打ちどころがありませんね。
企業で言えば、「売上」「利益」「従業員数」「時価総額」などの定量的な数値に目をつけるといいかもしれません。その数字をそのままビジョンに設定すると生々しすぎるかもしれませんが、「〇〇業界で一番選ばれる会社になる」や「〇〇を代表する会社になる」などの表現を用いて達成要件を別で定めるなどすれば、メンバーが共通のゴールを描けると思います。
企業が「ビジョン」や「理念経営」を重視する傾向は高まっていると言われています。理由としてあげられる1つは、学生をはじめとする若い世代が企業選びに「理念」を重視するようになってきている、ということがあげられます。
これは、24卒の就活生830名を対象に「就職活動において重視している項目」について実施したアンケートの結果です。
「ビジネスの将来性」に次ぐ2位に「共感できる理念やビジョンがある」がランクインしています。「仕事と生活のバランスが優れている」よりも上位なんです。こういった傾向にある就活市場で勝ち抜くための動きとして、ビジョンや経営理念に注目する企業が増えるのは自然の流れといえます。
もう1つの理由として挙げられるのは、新型コロナウイルスの流行でリモートワークが増加したことによりコミュニケーション不足が発生し、結果として社員のエンゲージメントが低下したことが考えられます。
リモートワークが増えたことで会社の理念・想い・方向性を社員に伝える機会が減少し、エンゲージメントの低下につながったと感じている企業が多いです。上記は全国250名以上の総務担当者を対象に実施した、「コロナウイルス流行が与えたエンゲージメントやモチベーションに関する調査結果」です。
80%以上が「モチベーションに影響がある」と回答しており、95%以上が「社員のモチベーションが低下した」と回答しています。こうした背景から、会社の方向性に関するコミュニケーションを活性化しようという動きが生まれており、その一環として経営理念やビジョンを重視する流れが生まれているのだと推測されます。
高校時代の僕に、野球以外のことを考える時間はほとんどありませんでした。
平日は毎朝5時台に起床し、6時台の電車に乗り、朝練習へ。授業が終わると21時ごろまで猛練習。土日も同じくらいの時間から始動し、丸一日練習するか試合するかのどちらか。休日は年末年始含めて年5日ほどしかありませんでした。
今思えばゾッとします。それでもなぜやり抜けたのかと言うと、「甲子園出場」という不動のビジョンがあったからであり、ビジョンを語るトップ(監督)がいたからであり、ビジョンを共有しあえる仲間がいたからだと思います。
当時と同じ時間と熱量を仕事に注ぐのは、現実的には難しいと思います。組織全体に強制するのは不可能です。でも、いろんなことを犠牲にしてでも追いかけるビジョンがあることや、同じ熱量でビジョンを追いかける仲間がいることは、とてつもなく幸せだなとも思います。
高校野球と全く同じ環境をつくるのは難しくても、近しい環境はつくることができるはず。そのために欠かせないのが、解像度も納得度も高いビジョンの存在なのです。